カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動

3.9 巨大地震津波災害予測研究センター

教授 堀宗朗 (センター長),佐竹健治(兼務),佐藤慎司(工学系研究科,兼務)
准教授 市村強,ラリス・ウィジャラットネ,長尾大道
特任研究員 秋葉博,伊藤伸一,高谷周平,本山紘希,飯山かほり,森川耕輔
学術支援専門職員 阿部宏
外来研究員 阿部雅史,阿部雅人,大塚悠一,桑谷立,小山宏史,澤田昌孝,椎名祐太,高橋勇人,中釜裕太,羽場一基,山本実
大学院生 Petprakob Wasuwat (D2),Quaranta Lionel (D1),山口拓真(D1),石川大智(M2),勝島啓介(M1),黒河天(M2),吉行淳(M2),Gill Amit(M2),Singhal Nishant(M1),猪苗代大路(M1),山川一平(M1),羽場智哉(M1),Wang Pengxiang (M1),Dharmasiri Migel Arachchillage Kasun (M1)
学部学生 日下部亮太,村上和也
インターンシップ研修生 Mirzajani Nanehkaran Mohsen
特別研究学生(協定校) KAO Kuork Chheng Patrice

巨大地震津波災害予測研究センターは,東日本大震災を契機として2012年4月に設立された研究センターである.巨大地震・津波と災害の予測に関する新しい計算科学の研究領域を開拓することを目的としている.新しい計算科学の研究領域は,解析手法の開発・利用による情報生成と各種解析結果の情報統合という分野である.情報統合は観測・実験等の融合強化も含む.また大規模数値計算を基盤とした理工学連携を進めることで,巨大地震・津波と災害の予測研究分野での新しい人材育成に貢献することも本センターは目指している.
巨大地震津波災害予測研究センターセンターのミッションは,大規模数値計算を使った巨大地震・津波と災害の予測研究である.このために,情報生成と情報統合の2つの分野を設け,理工学連携強化とシミュレーション研究統合を進めている.センターのスコープは,地震・津波・災害という対象に限定されるものではなく,新しい計算科学という手法も含んでいる.観測.実験の融合のための計算科学手法の研究開発や,火山噴火に関わる大規模数値計算の研究開発も進められている.

3.8.3 国際活動

(a) Muographers 2017 IM2N Symposium

東京大学は5月19日、宇宙に由来する素粒子ミューオンを用いた革新的透視技術を用いた社会インフラの安全性向上と自然災害の防災および軽減に向けてハンガリー大使館において開催された「ミュオグラファーズ2017: IM2Nシンポジウム」の中で、ノーベルト・パラノビッチハンガリー大使の隣席のもと、日ハンガリーのパートナーとの合意書に調印した(http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/news/topics/topics_z0508_00046.html)。この合意は、本学地震研究所とハンガリー科学アカデミーウィグナー物理学研究センターとの間で2015年及び2016年にそれぞれ締結された学術交流協定及び知的財産協定に続くものである。ICT分野で世界をリードするNECがその先進人工知能技術を使ったデータ解析を通して、輸送の安全確保や防災分野でソリューションを探すことで、ミュオグラフィに社会価値を加え、新しい市場の開拓などにおける協力関係を構築することを目的としている。日ハンガリーより60名の参加があった.

(b) 国際特許 共同出願

2017年4月、東京大学とハンガリー科学アカデミー・ウィグナー物理学研究センターは「Muography Observation Instrument」のタイトルにてPCT出願を行った.PCT出願とは、ひとつの出願願書を条約に従って提出することによって、PCT加盟国であるすべての国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度である。

(c) Muographers 2018: General Assembly

ミュオグラファーズ2017: 総会 を2017年10月2日,会場: フランス大使館, 主催: Muographers, 企画運営: 東京大学,フランス地質調査所で開催した。日欧の科学者が未知の構造に洞察を得るために実施したミュオグラフィ観測結果についてプレゼンテーションを行った。7か国21機関より70名の参加があった.総会の中で東京大学、フランス地質調査所はミュオグラフィを使った災害リスク軽減に対する協定に調印した(http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/news/topics/topics_z0508_00062.html)。在京フランス大使館で開催された調印式に臨席したフレデリック・ヴィダルフランス高等教育・研究・イノベーション大臣はミュオグラフィ研究の多様性が作り出す日仏間の人的交流の更なる活発化に高い期待を示した。 東京大学地震研究所とフランス政府機関との覚書は小原一成所長とピエール・トゥロア副CEOによって調印された。

(d) 大阪市立科学館:ノーベル賞展

大阪市立科学館主催,東京大学地震研究所,ハンガリー科学アカデミーウィグナー物理学研究センター,駐日ハンガリー大使館,在阪ハンガリー名誉総領事館,関西ハンガリー交流協会他後援で「ノーベル賞」をテーマにした展示会が大阪市北区の大阪市立科学館で2017年9月16日(土) ~12月17日(日)の日程で開かれた.その中で日ハンガリーの国際連携による第3世代ミュオグラフィの最新技術を紹介、その様子は、BSジャパンで報道された。

3.8.2 ラジオグラフィー解析による研究

(a) ミュオグラフィ自動処理データ閲覧システム

 我が国は世界に先駆けて素粒子ミュオンによる火山透視(ミュオグラフィ)を成功させ、これまでにない解像度で火山浅部の内部構造を画像化した。例えば、浅間山では固結した溶岩の下にマグマ流路の上端部が可視化された。また、薩摩硫黄島ではマグマ柱上端部に発泡マグマが可視化された。これらはすべて静止画像であるが、2009年の浅間山噴火前後の火口底の一部に固結していた溶岩の一部が吹き飛んだ様子が透視画像の時系列変化として初めて可視化された。さらに、2013年には薩摩硫黄島においてマグマの上昇下降を示唆する透視映像が3日間の時間分解能で取得された。これらの成果は、ミュオグラフィが火山浅部の動的な構造を把握し、噴火様式の予測や、噴火推移予測に情報を提供できる可能性を示している。しかし、現状ではデータを即透視画像として提供する事が出来ていないため、火山学者が透視画像にアクセス出来る状況に無い。そのため、火山学者による透視画像の解釈がいっこうに進まず、火山活動とミュオグラフィ透視画像の関連について系統的に評価するまでに至っていない。

 ミュオグラフィ自動処理データ閲覧システムは、噴火現象を含む火山活動の推移に伴う火口近傍の変化を、リアルタイムに噴火予測や防災に対応するため、ミュオグラフィ観測のデータ処理の自動化を行うことで、火山体浅部の構造を把握し、噴火様式の予測や、噴火推移予測に情報を提供することを目指すものである。2018年度までに、以下の機能がウェブ上に試験的に実装され、リアルタイムに最新情報に更新されている。

  1. 総ミュオンカウント数
  2. 停電等データ欠損情報 (年月日開始時刻-年月日終了時刻)
  3. 日毎の総ミュオンカウント数
  4. 日毎、層毎のミュオンカウント数
  5. 時間毎、層毎のミュオンカウント数
  6. ミュオン飛跡数分布の角度空間表示(方位角、仰角空間)

また、以下の対話形式のオンライン解析機能がウェブ上に試験的に実装されている。

  1. 期間を指定したミュオン飛跡数分布の生成
  2. 角度領域を指定したミュオン飛跡数の時系列変化(図 3.8.5

 現在、ミュオグラフィ観測のデータ処理の自動化は第2世代の装置に限られているが、2018年度は第3世代のミュオグラフィ観測のデータ処理の自動化を行い、ウェブ上に実装する。さらに、リモートセンシングを活用した火山観測技術開発グループ、地球化学的観測技術開発グループ、火山内部構造・状態把握技術開発グループとの共有を図り、異なる火山観測技術を用いる研究者との連携を強化する。

 原子核乾板を用いたミューオン観測は,イタリア・シチリア島周辺に位置するストロンボリ火山で行われた.2012年にも原子核乾板を用いて同火山で観測が行われたが,背景ノイズ粒子の排除能力が十分な検出器構造ではなかったため,火口から下30mだけイメージングできなかった.今回は高い排除能力を持つ乾板と鉛板を多数重ね合わせる多層型(ECC)を設置し,火口から下100mまでの浅部火口形状の解像が期待される.設置は2017年11月下旬に行われた.今後の予定は,2018年3月中旬に回収し,現像を経て,画像解析が行われる.

[図 3.8.5]

(b) ミュオン検出器多点設置による火山CTイメージング技術の研究

 ミュオグラフィを用いた3次元イメージングを試みた例としては,これまでに,2 方向からの観測を用いたTanaka et al.(2010)などの研究がある.そこでは透視対象内部の密度値をさまざまに仮定して,観測結果をもっともよく説明する構造を決定するというインバージョン手法が取られた.一方で近年,ミュオン検出器を火山周辺に多数設置できるような環境が整いつつある.このような状況を背景として,更なるミュオグラフィの空間分解技術の発展が期待される.具体的には火山を取り囲むようにミュオン検出器を多数設置し観測を行う,「ミュオンCT」の三次元密度構造再構成計算手法・実現可能性評価の研究が現在進められている.X線CTでも広く普及している密度構造再構成手法(ラドン変換と投影定理を用いる)をベースとして,山体の形状情報を用いた新しい再構成計算方法を開発することで,従来の手法よりも系統誤差が小さくなるシミュレーション結果が得られた.

 また,具体的な観測を行う上でどれぐらいの精度で三次元密度構造を再現できるか実現可能性をシミュレーションで評価した.評価は静岡県伊東市に位置する大室山(単成火山,スコリア丘)を対象とした.理由は a) 小型で円錐形状に孤立しているため,山体を囲うようにして検出器を設置しやすい, b)スコリア丘の内部密度構造の観測は未だ行われたことがない,c)クレーター底に直径100m程度の高密度の溶結岩(密度2.0~2.5g/cm3)が存在する可能性が高く,山体の大部分をスコリア(1.0~1.5g/cm3)と比べ明確な密度コントラストが期待できるためである.合計有効面積10平米の検出器を16点,ミュオン露光期間100日間で観測した場合,溶結岩を(20m)3の空間分解能で有意に検出できることが判明した(論文執筆中).今度は更なる再構成精度向上を目指すとともに,来年度以降,実際に多数のミュオン検出器を準備し大室山に設置することで,スコリア丘の密度構造基礎データを得ることを目指す.

(c) 大気ニュートリノおよび太陽ニュートリノを用いた,地球深部の化学組成・密度構造推定

 低エネルギーのニュートリノは,断面積が極めて小さく,地球を容易に貫通するため,質量密度の測定には適さない.しかし,大気中で生成されたニュートリノの観測などにより,ニュートリノは質量を持ち,その結果,ニュートリノは伝播中に別のニュートリノに変化することが分かっている(ニュートリノ振動).なお,この現象はスーパーカミオカンデによって発見され,その功績によって本学宇宙線研究所の梶田教授は2015年にノーベル賞を受賞したことで広く知られるようになった.

 ニュートリノが他の種類のニュートリノに変化する割合は,ニュートリノと他のニュートリノの質量の差,エネルギー,伝播距離,媒質中の電子数密度で決まる.したがって,電子ニュートリノが他のニュートリノに変化する割合を,エネルギー毎に測定すれば,地球内部の電子数密度を測定できる.ニュートリノ振動測定で得られた電子数密度と,地震波測定等で得られている物質密度とを組み合わせることにより,地球内部の平均的な化学組成を測定することが可能となる.この手法を,既知の地球の物質密度分布と組み合わせることで,原子番号(Z)と原子量(A)との比(A/Z比)をイメージングすることも可能である.

 今年度は、太陽ニュートリノと大気ニュートリノを組み合わせた、外核の化学組成測定、及び下部マントル中の水分量の測定の感度計算を行った。太陽ニュートリノは、両測定の感度向上に寄与するが、その度合いは検出器の系統誤差に依存する部分が大きいことが分かった。また、下部マントルの水分量測定についても、次世代の検出器では、統計誤差ではなく、ニュートリノ振動パラメータやCP対称性の破れの大きさに起因する系統誤差が支配的となることが分かった。

 2018年度以降は,以下の項目について研究を行う.

  1. 各種系統誤差の現実的かつ詳細な見積もりを行う。
  2. 既存の観測データ(Super-KamiokandeやDeepCore)を複数組み合わせて,地球中心核の電子数密度ないし平均化学組成に制限を加えることを目指す。

(d) 宇宙線を用いた大気のない天体のトモグラフィー

 地球大気中で生成されるミューオンのエネルギースペクトルと、大気のない天体表面で生成される宇宙線のエネルギースペクトルは大きく異なる。パイ中間子が崩壊してミューオンに変化する前に、物質内部の原子核と衝突することによって、また電離損失によって、エネルギーを失ってしまうため、大気のない天体表面では、エネルギーの低いミューオンしか生成されない。したがって、大気の存在しない天体表面のトモグラフィーには、ミューオンは適さない。

 しかし、その効果を逆手にとって、大気のない天体表面のトモグラフィーを行うことは可能である。一次宇宙線が天体表面で生成した荷電パイ中間子が物体中を移動する距離は、ミューオンと同じく、密度に依存する。パイ中間子は十分にエネルギーを失ったのち、ミュー粒子へ、そして最終的には電子陽電子へと崩壊する。ここで生成された電子陽電子の一部は、月面から上方へ向かうため、月面から上方に向かう電子を観測することで、天体浅部の密度プロファイルないし平均密度を、2次元的に測定することが可能となる。

 今年度は月をテーマとした研究を行った。特に、月表面の平均密度を変えると、上向き電子のエネルギースペクトルがどのように変化するかを調べた(図 3.8.6)。計算の結果、月面から100km上空の月周回軌道から、月面の平均密度の違いを測定することが原理的に可能であることが分かった。

 2018年度以降は、インド工科大学(IIT)、インド物理学研究所(PRL)、インド宇宙研究機関(ISRO)等と共同で、本測定手法の有効性の詳細な評価を行い、有効性が確認されれば、検出器の設計に着手する。同時に、他の天体への応用可能性についても検討する。

[図 3.8.6]

3.8.1 素粒子検出デバイスの開発研究

(a)  ミュオグラフィ検出器 - 並列ミュオグラフィの軽量化、高解像度化

 2006 年、地震研究所が火山内部を世界に先駆けて描き出して以来、ミュオグラフィは急速に世界に広まりつつある。ミュオグラフィとは,宇宙線に含まれる高エネルギー素粒子・ミューオンの強い透過力を利用して,キロメートルを超えるサイズの巨大物体内部を透視し,その内部の密度構造を可視化する技術である.これまで第2世代システムのノイズ低減能力を強化することで2013年に薩摩硫黄島で発生した噴火において、マグマの昇降をとらえることに成功しているが、観測装置には、総重量11tの鉛製放射線シールドを実装する必要があった。また、それを支えるフレームも強固に作る必要があり、装置全体の重量は16 tにも及んだ。このような重厚長大な観測装置は、運搬において大型のクレーンを要する上、小型フェリーのタラップの重量制限を超えるため、何台ものトラックに分載する必要があるなど、運搬を高コスト化する要因となっていた。更にテレビがハイビジョン、フルハイビジョンそして4kへと進化してきたように、ミュオグラフィもまた、高解像度透視画像を提供していくことが求められている。

 2015年、地震研究所はハンガリー科学アカデミーウィグナー物理学研究センターと学術交流協定を、翌2016年に知的財産協定を締結した。これらの国際協定をベースとして、ハンガリーの多線式比例計数管の技術を地震研究所の第2世代極低雑音ミュオグラフィ観測システム(Scintillator-based Muography Observation System; sMOS)に実装することで、第3世代システム(multi-wire-proportional-chamber-based Muography Observation System; mMOS)を開発した(図 3.8.1)。ハンガリー製の多線式比例計数管はワイヤーピッチが12 mmと第2世代ミュオグラフィ観測装置のシンチレーターのストリップ幅と比べて1/10近く狭く、解像度を大きく向上させると同時に、システム全体のボリュームを変えずに、ノイズ粒子除去用の放射線シールドを大きく低減できた。結果として放射線シールドの厚み低減とそれに伴う支持フレームの強度低下により、単位面積当たりのシステム重量を一桁近く低減することに成功した。第3世代ミュオグラフィ観測システムは鹿児島県桜島に設置され、2017年1月20日より運用を開始した。2017年度は、口径拡大を順次行い、現在は3台のmMOSが並列運用され、実効有効面積約2平米の高解像度ミュオグラフィ観測が行われている(図 3.8.2)。ノイズレベルは10-7 gcm-2 sr-1 s-1と期待通りであり、軽量でありながらも第2世代システム以上の高いノイズ低減能力と解像力を示した(図 3.8.3)(http://www.nature.com/articles/srep39741)。

 軽量高解像度第3世代ミュオグラフィ観測システム(mMOS)は、その軽さと高解像度より、浅部地下に埋設することも可能である。そのためのテスト実験をNECの玉川事業場で実施した。同事業所に地下埋設物透視サイトを建設した。仕様は次の通りである。直径60cm深さ3mの観測井を掘削、幅90cmの鉄筋コンクリート製供試体を観測井の隣に埋設した。一方、幅25cmの比例計数管を実装したmMOSを製作し、観測井に挿入し、測定を行うことで、測定にかかる時間、解像度の検証を実施した。特に、地中レーダー等既存の地下構造探査の手法では測定が不可能な埋設物下端の位置決定精度において、数cmの精度が得られることが検証された(図 3.8.4)。埋設物下端の位置は橋梁橋脚の地中部深度を把握する上で重要な情報となる。

[図 3.8.1]

[図 3.8.2]

[図 3.8.3]

[図 3.8.4]

 (b) ボアホール設置型ラジオグラフィー

 宇宙線ミューオンは上空からのみ飛来する.したがって,断層破砕帯や地滑り面等の地下構造を透視するためには,測定対象を見上げるように,ミューオン検出器を地下深く掘削坑(ボアホール)等に埋設することが必要となる.ボアホールのような狭隘な空間では,センサーの有効面積を大きくとることが困難なであり,ミューオン・フラックスは限られた量しか得られないので,それを有効に活用する観測技術の開発が不可欠となる.

 2014年度までに,跡津川断層(岐阜県飛騨市の山中)近傍に掘削された最大深度350mのボアホールを利用して,深度100mまでのミューオン・フラックスデータを取得した.その解析結果では,断層破砕帯の走行方向に有意なフラックス増加を検出し,それが深度50mから95mにかけて存在する破砕帯沿いに期待される空隙率の増加と整合することが見出された.また,断層の傾斜角が従来のモデル(〜90°)とは異なり,約70°であることも判明した.これを受け,2015年度は検出器の高感度化・高分解能化のため,新型の検出器を製作した.新型検出器は,方位角方向8方向に分割された二層のシンチレーターで構成され,方位角方向に分解能を有する.また,検出器内の構成要素の配置を最適化し,シンチレーターの面積を最大化することで幾何学的に計算される検出器のアクセプタンスは約3倍となった.更に,電源供給を除く全ての装置を検出器筐体中に収め,超低消費電力データ収集エレクトロニクスを採用した.これらの改良により,検出器の感度・分解能および観測作業性が大きく向上した.

 2017年度は,断層の三次元構造決定に向けたデータ収集を深度180 mまでの各深度において長期間にわたり行った。取得したデータについて詳細な解析を進める一方で,検出器および周辺地形と断層を含めたシミュレーションを行うため素粒子相互作用シミュレータGeant4を用いたコードの開発を開始した。これにより,観測データを再現するように最適化した断層パラメータを得ることができる.現在,検出器を地下300 mに設置し,越冬観測を行っている.来年度はシミュレーションツールを完成させ,これらの観測データと合わせて断層の三次元構造探査を進める.

 更にこれらと並行して第三世代検出器の開発に着手し,現行検出器では実現されなかった仰角方向分解能の実現と方位角方向分解能向上のため,シンチレーター構成および光検出器の変更とデータ収集エレクトロニクスの改良を進めている.

3.8 高エネルギー素粒子地球物理学研究センター

教授 相原博昭(兼任), 大久保修平(センター長), 田中宏幸
助教 宮本成悟, 武多昭道
特任研究員 保科琴代, OLAH Laszlo, 須田 祐介(2017/11/1~), 上木賢太(2017/8/31迄), 山崎勝也(2017/9/30迄)
大学院生 南 一輝(M1),長原翔伍(D1), 高木悠(D3)

本センターの設置目的は,宇宙線ミューオンやニュートリノ等の高エネルギー素粒子を用いて,これまでにない高い分解能(10-100m程度)で断層や火山などの固体地球内部を透視し,地震・火山現象の解明と防災・減災に貢献することである.そのためには素粒子透視技術(ラジオグラフィー)の一層の高度化が必要となる.とくに素粒子検出デバイス開発に対しては,小型・軽量・低消費電力という野外観測からの要求に応えつつ,一方で空間的にも時間的にも高い解像度を確保することが,世界の中でのリーディング・エッジを今後も確保することが欠かせない.また,一方でこれまでは火山に限定されてきた応用分野を,地震断層等にも広げていくことが望まれてきた.これらのことを念頭に,当センターで進めてきた研究活動を以下に述べる.

3.7 海半球観測研究センター

教授 歌田久司,川勝均,塩原肇(センター長)
准教授 清水久芳,竹内希
助教 一瀬建日,馬場聖至,綿田辰吾,竹尾明子(兼務)
客員教員 尾鼻浩一郎
日本学術振興会特別研究員 石瀬素子,南拓人
特任研究員 Roy Sunil Kumar
技術支援員 横山景一
外来研究員 多田訓子,原田雄司
大学院生 Liang Pengfei(D3),Li Ruibai(D2),Long Xin(M2),川野由貴(M1),丸山純平(M1),Kim Hyejeong(M1)

3.6 火山噴火予知研究センター

教授 武尾 実,中田節也,森田裕一(兼)
准教授 市原美恵,大湊隆雄(センター長),上嶋 誠(兼),前野 深
助教 青木陽介(兼),及川 純,金子隆之,小山崇夫
客員准教授 小澤 拓,宮縁育夫,安井真也
外来研究員 嶋野岳人,鈴木由希,常松佳恵,長岡 優,野口里奈,吉本充宏
大学院生

蘭幸太郎(D3),菅野 洋(D2),大橋正俊(D1),山河和也(M2),Yuki Natsume (M2),甲斐 健(M2),池永有弥(M2)

 

 火山センターでは,火山やその深部で進行する現象の素過程や基本原理を解き明かし,火山噴火予知の基礎を築くことを目指し,火山や噴火に関連した諸現象の研究を行っている.その基本的な研究方針は,2009年サイエンスプランで掲げられた「火山活動の統合的解明と噴火予測」と2013年11月に出された「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究の推進について(建議)」に基づいている.本センターでは 2004年度に作成した「火山観測の将来構想」に基づき観測体制の整備を実施しそれによる観測研究を続けた.すなわち, a)観測網を強化し研究成果を上げるべき火山として,浅間山,伊豆大島, b)研究成果が短期的には大きく望めないが,将来のために観測を継続・改良すべき火山として,三宅島,富士山,霧島山. c)他機関が既に観測網を整備している等の理由で基本的には撤退する火山として草津白根火山を挙げ,この方針について全国の火山噴火予知研究コミュニティーで了解を得て,順次整備を進めてきた.

 2010年度以降は,観測所等の施設は観測開発基盤センターに移管されたが,同センターの火山担当教員との協力・共同の元に研究方針に沿った整備を進めている.2011年1月26日に開始した霧島連山・新燃岳における約300年ぶりの本格的な準プリニー式噴火を契機に,霧島山における地震観測の広帯域化と空振観測の整備を進めた.霧島では,硫黄山の噴気活動の活発化や新燃岳の2017年10月噴火など,活動の活発化が続き,本稿執筆時点の3月には2011年の噴火時に匹敵する溶岩流出が起きている.また,伊豆・小笠原弧の西之島においては2013年11月に1973〜74年以来の噴火活動が再開したため,2016年6月には無人ヘリによる調査を実施した.活動が一時的に低下した2016年10月には2013年の噴火開始後初めての上陸調査による噴出物試料の採取と旧島への地震・空振観測点を設置を行った.西之島は2017年4月には再活発化し西方と南方へとさらに拡大した.

 この間の火山噴火予知研究センターの主な成果をここに簡潔に纏める.広域の地殻構造解析と火山周辺の地震活動・地殻変動解析から,浅間山と伊豆大島において,上部地殻から火口に至るマグマ供給系の概要を明らかにした.富士山では,地質学・岩石学的データに基づいて長期的発達史についての重要な知見が得られた.さらに,遠地地震のレシーバ関数と富士山周辺の表面波分散曲線を合わせて逆解析することで富士山直下の深さ約50km以浅のS波速度構造を明らかにし,富士山直下の深さ20kmから40kmの深さに大きなマグマ溜まりが存在する可能性を示した.火口近傍の多項目観測データの解析を通じて,浅間山,霧島山新燃岳におけるブルカノ式噴火時の火道内部現象の理解が進んだ.ミュオグラフィによる密度観測と地震・地殻変動の解析結果を統合して,浅間山の火道浅部の位置を明らかにした.霧島山新燃岳の噴火では,噴火の推移とともにマグマの物理化学的性質がどのように変化したかを準リアルタイムで特定し,他の地球物理学的観測結果と比較する事により噴火モデルパラメータに制約条件を与え,当該火山噴火の総合的描像を得る上でも重要な役割を果した.小笠原諸島の西之島で2013年11月から始まった噴火は,周辺の浅海を溶岩で埋め立て新しい火山島を作り出し,約2年の活動を経て一旦終息したが,2017年4月からは再度活発化し溶岩流出による拡大が進んだ.この間,航空機や人工衛星による画像解析,父島に設置した空振アレイ,西之島周辺の海域に設置された海底地震計の観測により,西之島の成長の様子が把握されてきた.2016年以降の火山活動の低下を受け,我々は10月16日から25日にかけて西之島の火山活動の調査を実施し,2017年6月に回収された海底地震計,海底電位磁力計の解析結果とあわせて,地質学と地球物理学の両面から火山島成長のプロセスを検討しつつある.

 以下に,火山毎に主な研究を紹介する.

3.4 災害科学系研究部門

教授 古村孝志(部門主任), 壁谷澤寿海, 纐纈一起
准教授 楠浩一, 三宅弘恵(兼務)
助教 飯田昌弘
特任助教 原田智也
特任研究員 鈴木舞
日本学術振興会外国人特別研究員 Padhy Simanchal
外来研究員 Rami Ibrahim, 司宏俊
共同研究員 伊藤嘉則, 大石裕介
学術支援職員 齊藤麻実
技術補佐員 鎌田恭子
大学院生 小林広明(D3), 引田智樹(D3), 尹淳恵(D3), ディオ紅旗(D3),潘浩然(D2), 陳一飛(M2), 河本洋輝(M2), 向井優理恵(M2), 李禹彤(M2) , 佐竹高佑(M2), 瀬口大誠(M2), 王 杰惠, (M1), 小川諄(M1), 壽一哲(M1), 村上譲(M1),高野和俊(M1)
 研究生 王 澤霖

災害科学系研究部門は,地震による強震動や津波などの現象の解明と予測を行い,それらによる災害を軽減するための基礎研究を理学と工学の視点から行う.観測,実験,解析,理論,シミュレーション,被害調査,資料分析などの手法によって,強震動地震学・津波地震学や耐震工学・地震工学などの分野の基礎的あるいは応用的な研究を行っている.本部門における最近の主な研究対象は,大地震による強震動の生成過程の理解のための震源過程研究,高密度強震観測,地震波伝播・強震動のコンピュータシミュレーション,構造物の被害調査,耐震性能評価に関する研究などである.

3.5 地震予知研究センター

教授 平田直(センター長),佐藤比呂志,山野誠,岩崎貴哉(兼任),加藤尚之(兼任),小原一成(兼任),篠原雅尚(兼任)
准教授 加藤愛太郎,望月公廣,上嶋誠,飯高隆(兼任),酒井慎一(兼任),田中愛幸(兼任)
助教 福田淳一,石山達也,蔵下英司,山田知朗,五十嵐俊博(兼任)
特任助教 橋間昭徳
特任研究員 CLARINGBOULD Johan, 畑真紀,郭一村,片桐昭彦,加藤直子,大塚浩二,VAN HORNE Anne
学術支援職員 柳澤恭子
外来研究員 濱元栄起,HUANG Qinghua,伊藤谷生,笠原敬司,川北優子,川村喜一郎,PANAYOTOPOULOS Yannis
大学院生 上田拓(M1),岩﨑友理子(M2),池口直毅(D1),仲谷幸浩(D3),米島慎二(D3)
地震研特別研究生 NEDERSTIGT Tijn , YUAN Yiren

3.3 物質科学系研究部門

教授 武井(小屋口) 康子(部門主任),中井俊一
准教授 平賀岳彦, 安田敦
助教 三部賢治、三浦弥生、折橋裕二
特任研究員 小泉早苗、Thomas Ferrand
研究補佐員 今野沙世
大学院生 仲小路理史(D3),末善健太(D3),山内 初希(D3),谷部功将(D3), 佐々木 勇人(D1),岡本篤(M2)

本部門では,物質や物性の研究を通じて,固体地球内部の構造やダイナミクスの素過程を明らかにすることを目指している.地球に留まらず,太陽系内外で の諸現象も研究対象にしている.理論,室内モデル実験,超高圧実験,元素・同位体分析など様々な方法に基づいて研究を行っており,その 内容は多岐にわたる.本年度における概要を以下に示す