大規模シミュレーションモデルに基づくデータ同化のための不確実性評価が可能な新しい4次元変分法の開発

伊藤伸一(1)、長尾大道(1,2)、山中晃徳(3)、塚田祐貴(4)、小山敏幸(4)、加納将行(1)、井上純哉(5)

(1)東京大学地震研究所 (2)東京大学大学院情報理工学系研究科 (3)東京農工大学大学院工学府 (4)名古屋大学大学院工学研究科 (5)東京大学 先端科学技術研究センター

Physical Review E 94, 043307 (2016), https://doi.org/10.1103/PhysRevE.94.043307

 データ同化は、ベイズ統計学に基づいてシミュレーションモデルと観測データを融合する計算技術であり、定量的な将来予測を可能にします。もともとは気象・海洋分野で発展したものでしたが、原理的に広く一般の科学分野に用いることができるため、近年その有用性が認知されはじめており、固体地球科学分野では、地震の理解に重要な断層の摩擦力の推定や、マグマなどの液状物質が冷え固まっていく際の成長過程の推定などに利用されてきています。さらにデータ同化は、ただ推定を行なうだけでなく、その推定値の不確実性を評価することもできます。推定値の不確実性を端的にあらわす身近な例として、台風の進路予測図があげられ、推定値は台風の中心で、そのまわりの予報円が不確実性をあらわします。定量的な将来予測のためには、推定を行なうだけでは不十分で、不確実性の評価を行うことにより、より多くの情報をもたらすことができます。

しかし、従来のデータ同化では、シミュレーションモデルが大規模になるにつれて計算量が極端に増大し、現実的な時間内での不確実性の計算が不可能になるという問題がありました。不確実性の評価を行う際には、その精度を犠牲にする代わりに、さまざまなアドホックな工夫を凝らしていました。そこで私たちは、その問題を解決するために2nd-order adjoint法という計算法を利用し、大規模なシミュレーションモデルに対しても高精度な不確実性の評価を可能にするアルゴリズムを開発しました。図は、提案手法を検証するために、液体中の固体核形成の問題に適用した結果です。提案手法により、固体核の成長速度および成長過程の推定と、その不確実性の評価に成功しています。

私たちの構築した手法は、これまでシミュレーションモデルが大規模であるために難しかった物理現象に対しても定量的な将来予測を可能にします。それによって、例えば、地震波伝播の時空間推定、津波の波高・波速の高精度予測、地球内部の岩石の成長にともなう地殻構造変化の履歴評価・将来予測など、さまざまな分野での応用が期待されます。

図1:液体相中で固体の核が成長するモデルの時間発展。黒色の部分が液体相、黄色の部分が固体相。
図1:液体相中で固体の核が成長するモデルの時間発展。黒色の部分が液体相、黄色の部分が固体相。
図2:提案手法で評価した固体相体積分率の将来予測とその不確実性。
図2:提案手法で評価した固体相体積分率の将来予測とその不確実性。