金曜セミナー(山崎雅氏)

火山性地殻変動における粘弾性緩和

山崎 雅

Tadashi Yamasaki

産業技術総合研究所 地質調査総合センター

Geological Survey of Japan, AIST

 

Email: tadashi.yamasaki@aist.go.jp

 

測地技術の発達により,数多くの火山帯においても地殻変動が観測されている。そのような火山性地殻変動からマグマ活動を捉えるためには,あらかじめ理論モデル等(例えば数値実験モデル)を使って,地下のマグマ活動が地表面変動にどう反映されるのかを良く知っておく必要がある。理論モデルとの比較を通してのみ,地殻変動観測に火山学的な意味付けをできるからであり,マグマ活動の制約が,予測量と観測量とのマッチングによってのみ可能になるからである。本研究においては,3次元有限要素モデル[e.g., Yamasaki & Houseman, 2015, J. Geodyn., 88, 80-89]を用いて,マグマ活動(回転楕円体を仮定したマグマ溜まりの膨張)に対する地殻・マントルの線型マックスウェル粘弾性応答を調べた。その結果,火山性地殻変動の振る舞いを第一近似的には次のように特徴づけられることがわかった;マグマ溜まりの膨張とともに地表面は隆起するが,マグマの供給が停まると地表面は沈降に転じる。マグマ溜まりの膨張による地表面隆起はこれまでの弾性体モデルでも予測されていたが,マグマ溜まりの膨張時においても粘弾性緩和が進行するので,粘弾性体モデルにより予測される隆起量は弾性体モデルによる予測量よりも常に小さくなる。例えば姶良カルデラでは大正噴火以降地表面の隆起が観測されており,その隆起量からマグマの蓄積量が推定されているが,弾性体モデルによる推定はマグマ蓄積量を過少評価している可能性がある。一方,マグマの供給が停まるなどしてマグマ溜まりの体積増加が停まると,地表面は沈降に転じるが,その沈降速度は主にマグマ溜まりの赤道面の深さに,そして弾性層が薄い場合(弾性層の厚さが地殻の厚さ10%程度に薄い場合)にはマグマ溜まりの赤道半径にも依存してくることが分かった。本研究では,ポスト・インフレーション(マグマ溜まりの膨張後)の沈降速度が主にマグマ溜まりの赤道面の深さや半径に依存するという特徴を,北海道の屈斜路カルデラで観測された地殻変動[Geographical Survey Institute, 2006, Report of Coordinating Committee for Prediction of Volcanic Eruption, Japan Meteorological Agency, 91, 1-4]に適用して,マグマ溜まりの深さと体積変化を見積もったが,その深さは地球物理観測からのイメージ(低比抵抗値分布)[Honda et al., 2011, Geophys. Bull. Hokkaido Univ., Sapporo, Japan, No. 74, March, 45-55]と調和的なものであり,同地域で観測される隆起後の沈降が粘弾性緩和で説明できることが示された。また,アトサヌプリ火山付近におけるポスト・インフレーションの沈降速度は~10^18 Pa sの粘性率に規定されるようなものであるが,一般的に観測される地震性地殻変動速度[e.g., Bürgmann & Dresen, 2008, Annu. Rev. Earth Planet. Sci., 36, 531-567; Yamasaki & Houseman, 2012, Earth Planet. Sci. Lett. 351-352, 105-114]よりも有意に大きい。このことは,火山帯の地温勾配が高いため,地殻の粘性率も相対的に低くなっていることを反映しているのかもしれない。