加藤慎也, 長尾大道, 飯尾能久
PoViT-UQ: P-wave polarity and arrival time determination using vision transformer with uncertainty quantification
Geophysical Journal International, Volume 243, Issue 1, October 2025, ggaf324, https://doi.org/10.1093/gji/ggaf324
人工知能(AI)の最新技術であるVision Transformerを用いて、地震の最初の揺れであるP波の到達方向(上向きか下向きか)と到達時刻を同時に判定する新しい手法を開発しました。この研究で開発された「PoViT-UQ」は、従来の深層学習を用いた方法では難しかった“予測の確からしさ”を数値として示すことができる点に大きな特徴があります。AIが自ら「この判定はどの程度自信があるのか」を示す予測の不確実性を定量化することで、信頼できるデータだけを選んで利用できるようになりました。
研究では、日本国内の高密度な地震観測網から得られた数十万件以上の地震波形を用い、AIにP波の「Up」「Down」「Noise」の3種類を識別させるとともに、到達時刻を推定するよう学習させました。その結果、250 Hzで観測された高精度のデータでは、極性判定の正答率が98%を超え、到達時刻の誤差もわずか0.03秒以下という非常に高い精度を実現しました。さらに、2016年鳥取県中部地震の余震データを用いた検証でも、高い信頼性が確認されました。
地震が発生した際に、断層がどのように動いたのかを理解するためには「P波初動を用いた発震機構解」の推定が行われます。この解析に必要不可欠なのが、P波の最初の動きが押し(Up)か引き(Down)かを正しく判断することです。しかし、人の目による作業は膨大な時間と労力を要し、わずかな誤判定が大きな解析誤差につながることもあります。今回の成果は、この作業をAIが高精度かつ効率的に自動化し、さらに結果の信頼性まで評価できるという点で大きな前進となります。 この技術は、大量の地震データを迅速に処理し、余震や小さな地震を含めた震源メカニズムの解析を効率化することにつながります。これにより、災害発生直後の迅速な状況把握や、地震活動の理解を深める研究が進み、防災や減災への貢献が期待されます。

この図は、AIによる地震の最初の揺れ(P波)の判定例を示しています。(a)は入力された地震波形と、AIが特に注目した部分を色で示したものです。赤く強調された部分ほどAIが重視して判定しています。(b)は(a)の波形を拡大したもので、人間が読み取った到達時刻(青)とAIの推定(赤)を比較しています。(c)は到達時刻に関する分布を示し、AIがどの時刻をP波到達と判断したかを表しています。(d)は極性(Up・Down・Noise)の分類結果を三角図で示したもので、点の位置がAIの判断を表します。(e)は判定結果のばらつきを示す図で、箱の大きさがAIの「予測の不確実性」を表しています。箱が小さいほどAIの判断は安定しており、逆に箱が大きい場合は結果が揺らいでいる、つまり自信が低いことを意味します。このように、PoViT-UQでは単なる判定結果だけでなく、「どの程度信頼できるか」を定量的に示すことができる点が特徴です。
