2023年10月30日硫黄島沖噴火と新島形成について

2023年11月2日

概要:  2023年10月30日に小笠原・硫黄島沖で発生していた噴火の様子を観察した。コックス・テール・ジェットを伴うマグマ水蒸気爆発が発生し、時折、長径数mを超える岩塊を投出していた。爆発地点のすぐ北側には新島が形成され、浮遊軽石や変色水が発生している様子も確認した。今回の噴火地点は2022年噴火とほぼ同じ場所であり、硫黄島のマグマ活動の再開を示すと考えられる。

※ 報道関係の方へ: 硫黄島沖噴火の写真の引用は,毎日新聞社にお伺いください。



背景:  硫黄島は伊豆小笠原弧南部の活動的火山で、2021年に大規模な海底噴火を起こした福徳岡ノ場の北北西約60 kmに位置する(図1)。海面上に現れている島部分は北東-南西方向に8.6 km、北西-南東方向に5.6 kmの大きさだが、実際には基底直径約40 km、比高約2000 mの海底火山である。また、この山頂部には直径約10 kmのカルデラが存在し、硫黄島はその一部を構成している。島の北東側に元山、南西端に摺鉢山を擁するが、このうち元山はカルデラ内に形成された中央火口丘である(図1)。硫黄島島内には多くの噴気地帯、噴気孔があり、たびたび小規模な噴火(水蒸気噴火)が発生しているほか、元山付近では異常な速さで隆起が続いている。近年、その隆起量は年間1 m以上にもおよび、世界で最も隆起速度が速いカルデラ火山の一つでもある。

硫黄島南東の翁浜沖では、近年、浅海での噴火が何度か発生していたが、2022年7月には有史で初めてマグマの噴出を伴うマグマ水蒸気爆発が発生した。その後、2023年6月にも噴火があり、10月の活動に至っている。


噴火状況:  2023年10月30日12:20-12:35頃、毎日新聞社機より、硫黄島沖での海底噴火の様子を観察した。硫黄島南部翁浜沖約1 kmの地点において(図1)、数分おきにコックス・テール・ジェットを伴うマグマ水蒸気爆発が発生していた。ジェットの高さは最高50 m以上に達すると推定され、時折、長径数mを超える岩塊を投出していた(図2)。噴火地点のすぐ北側には主に岩塊で構成される直径100 m程度の新島が形成されていたが(図3)、表面に明瞭な火口地形は認められない。しかし同心状の構造を有するほか、浮遊軽石や変色水が島の周縁部全体から生じているため(図4)、この場所からマグマが噴出していると考えられる。すなわち、マグマ水蒸気爆発を発生している火口と、島を構成する岩塊等を噴出している噴出口の、少なくとも2つの場所で噴火が起きていると推定される。浮遊軽石は海岸と並行して南西側に向けて帯状に分布する(図5)。その一部は硫黄島を取り巻くように断片的に存在し、最も北側では監獄岩付近にも確認された。 観察した新島の形成と軽石拡散の状況から、噴火開始後間もないと推定されたが、気象庁によると、2023年10月21日から噴火が開始したようである。今回の噴火地点は2022年の噴火地点とほぼ同じであり、硫黄島のマグマ活動の再開を示すと考えられる。

 図1  2023年10月硫黄島噴火の状況と位置関係。
図2 (a) 東側から見た噴火地点。ほぼ垂直にジェットが吹き上がっている。奥には軽石いかだが見える。(b) 南側から見た噴火地点。時折、数mを超える巨大岩塊がジェットと共に投出されることがある。2023年10月30日12時30分頃。
 
図3 南東側からみた噴火地点。奥には硫黄島翁浜が見えている。浮遊軽石および変色水は、新島を取り巻くように分布し、流出した軽石からは水蒸気が激しく立ち昇っている。2023年10月30日12時30分頃。
図4 南東側からみた噴火地点(図3の拡大)。新島の表面に明瞭な火口地形は認められないが、同心状の皺のような構造を有し、軽石や変色水が島の周縁部全体から生じている。2023年10月30日12時30分頃。
図5 南西側からみた噴火地点と、軽石いかだおよび変色水の広がりの様子。2023年10月30日12時30分頃。