【分析結果】伊豆鳥島・孀婦岩近海で採取された漂流軽石の全岩化学組成

概要: 東京大学地震研究所では、2023年10月27日に気象庁海洋気象観測船「啓風丸」にて鳥島・孀婦岩近海(図1)で採取された軽石の全岩化学組成の分析を行った。その結果、SiO2含有量70.5–72.0 wt.%、Na2O+K2O含有量6.3–6.5 wt.%のデイサイト〜流紋岩質の岩石であることがわかった。この化学組成は、本地域の活火山列を構成する火山の噴出物とは異なる一方、背弧リフト帯の珪長質噴出物(鳥島リフトやスミスリフト)の化学組成(文献値)とほぼ同様の特徴を有する(図2)。

試料: 気象庁海洋気象観測船「啓風丸」により、鳥島・孀婦岩近海で採取された漂流軽石。生物の付着がほとんど見られない新鮮な軽石である。

採取日時・場所: 2023年10月27日12時頃、北緯29°18’ 東経140°00’付近(図1)。

分析方法: 3つの軽石礫(写真1)を小片に分割し、塩抜きを行った後、乾燥、粉砕、ガラスビード作成を行い、地震研究所所有の蛍光X線分析装置(XRF)により分析した。

図1 気象庁による軽石採取地点、海上保安庁による浮遊物確認海域、周辺火山および10月初旬の地震イベント(Sandanbata et al. doi:10.22541/essoar.169878726.62136311/v1を参照)の位置関係。
写真1 全岩化学組成分析を行った2023年10月鳥島・孀婦岩近海漂流軽石。やや円摩されているものの、生物の付着がほとんどなく、新鮮である。

結果:  3つの軽石礫の分析値は、それぞれSiO2含有量72.0、70.5、70.6 wt.%、トータルアルカリ(Na2O + K2O)含有量 6.5、6.3、6.3 wt.%であった。フロント活火山列と背弧リフト側の噴出物では、珪長質マグマのアルカリ含有量が異なる(図 2)。今回の分析値は、最近活動的な近隣火山(西之島、硫黄島、福徳岡ノ場、海徳海山、明神礁)の化学組成とは異なり、背弧リフト側のややアルカリに富む噴出物の特徴を示す。このことから、漂流軽石は、この地域の背弧リフト帯における流紋岩質マグマによる最近の活動で噴出した可能性が高い。

図2 鳥島・孀婦岩近海漂流軽石(赤星印)および周辺海域の火山岩の全岩化学組成。岩石分類は,Le Bas et al. (1986) による。

参考文献: Ikeda and Yuasa (1989) Contrib. Mineral. Petrol., 101, 377-393; Fryer et al. (1990) Earth Planet. Sci. Let., 100, 161-178; Hochstaedter et al. (1990) Earth Planet. Sci. Let., 100, 179-194; 小坂ほか (1990) 水路部研究報告, 26, 61-85; Yuasa and Nohara (1992) Bull. Geol. Surv. Jap., 43, 421-456; Taylor and Nesbitt (1998) Earth Planet. Sci. Lett., 164, 79-98; Shukuno et al. (2006) J. Volcanol. Geotherm. Res., 156, 187-216; Tani et al. (2008) Bull. Volcanol., 70, 547-562; Hirai et al. (2018) Geology, 46, 371-374; Maeno et al. (2021) Front. Earth Sci., 9, 73819; Maeno et al. (2022) Comm. Earth Env., 3, 260; 杉本・他 (2005) 火山,50, 87-101.