2017年の霧島山硫黄山火口周辺の火山活動

ウェブサイト立ち上げ:2017年5月11日
最終更新日:2017年5月15日

えびの高原では、硫黄山方向が隆起する傾斜変動が繰り返しみられており、気象庁が2017年5月9日に、噴火警戒レベルを1から2に上げています。

このページでは現地調査の報告を更新しております。


2017年5月15日

霧島山硫黄山噴気帯での熱異常域拡大に伴う噴気・噴湯孔の出現について

霧島山硫黄山火口の南側では,2017年3月頃から噴気・噴湯孔が出現するなど熱異常域の拡大が認められる.これらの出現位置や噴気活動の様子は,今後の硫黄山周辺の火山活動の推移を考える上で重要であると思われるので以下に報告する.なお,噴気孔Aの土砂噴出(5月11日火山噴火予知連委員会に報告)については,その後の気象庁カメラの画像解析から4月26日午前11時半頃と推定される.

1.硫黄山火口周辺の熱異常域の拡大について
第137回火山噴火予知連絡会資料(その2の4 霧島山,p77)に報告したように,硫黄山火口南側及び硫黄山南斜面では熱異常域(硫黄山噴気帯: 舟崎・他,2017)が認められる.東京大学地震研究所等*では2017年3月19日に熱異常域を測定し,それ以前に続き熱異常域が拡大していることを確認した(図1).

図1 硫黄山噴気帯の熱異常域(50℃以上)の面積変遷
2016年1月16日~8月20日の簡易計測による面積測定誤差は±1 mを見込んだ.△は2016年2月21日の面積に,新たに生じた高温域の面積を追加した.

2. 硫黄山噴気帯の熱異常域拡大に伴う地表変状
図2に硫黄山噴気帯の50℃以上の熱異常域(2017年3月19日観測)と,噴気・噴湯孔の位置を示す.地熱活動に伴い熱水や温泉が湧き出る現象を,ここではえびの高原自然保護対策協議会(1987),舟崎・他(2017)等に基づき噴湯とし,その孔を噴湯孔と呼ぶ.なお,図2に示した黄色の着色範囲は2017年5月5~10日の調査時に噴気量が多かった場所であり,これらを噴気域と呼ぶ.また,噴気域には径数10cm以上の円~方形の孔が形成され,そこから強い噴気が生じているものを噴気孔と呼ぶ.

図2 硫黄山噴気帯の熱異常域と噴気・噴湯孔
青線は2017年3月19日に観測した50℃の熱異常域.噴気域,噴気・噴湯孔は,5月5日~10日に確認した地点及び範囲を示している.硫黄山噴気帯は,舟崎・他(2017),硫黄山火口・硫黄山東火口は,田島・他(2014)による.

(1) 噴湯孔A
2017年3月19日に噴気域A周辺の熱異常域南端に,2箇所の噴湯孔(2m×1m,1m×0.5m)を確認し(噴湯孔A),それらから熱水(92.2℃)がわき出していた.その際2孔あった噴湯孔Aは4月22日には合体し1孔となり,5月7日には4m×3mに,10日にはさらに別孔が形成され複合孔となって5m×3mに拡大した(図3).噴湯孔Aは,2月4日に確認されていないので,2月4日~3月19日間に形成されたと考えられる.

図3 噴湯孔Aの経時変化
矢印は噴湯孔を示す.A) 2孔の噴湯孔が見られ,写真上側孔は長辺2m,短辺1m,下側孔は長辺1m,短辺0.5m(2017年3月19日撮影). B) 噴湯孔Aの長辺4m,短辺3mであり周辺に泥のしぶきと思われる着色域が見られる(2017年5月7日撮影).

(2) 噴湯孔F
3月22日,噴気域Dと噴気域Hの中間南側に径約1mの噴湯孔Fが気象庁(2017:火山活動解説資料平成29年3月)によって確認された(図4).4月22日には噴湯孔Fは径約1.8mに拡大.3月19日に噴湯孔Fは確認されていないので,3月19日~3月22日間に形成されたと考えられる.

図4 噴湯孔F
噴湯孔は直径1.8m,深さ50cm(2017年4月22日撮影).

(3) 噴気孔H
2017年4月22日に径約1.5mの噴気孔Hが確認され,そこから轟音を伴う強い噴気が噴出していた(図5).写真比較により,噴気孔Hの周辺には径1m程の岩塊が新たに堆積していることを確認.4月22日には,噴気孔周辺に泥の付着も確認(図6B).従って,噴気孔Hの形成時には地表の岩塊が飛ばされ周辺に落下し,同時に泥が混入した熱水が噴出したと考えられる.さらに,5月5日には,噴気孔Hの拡大と孔周辺に数cm大の礫の堆積しているのが認められた(図6C).噴気孔Hでは礫を放出しながら拡大していると考えられる.

図5 噴気域Hの経時変化
矢印は噴気孔Hの位置を示す.A) 噴気域Hの噴気状況(2017年2月4日撮影). B) 噴気域Hの噴気量がやや増す(2017年3月19日撮影).C) 噴気域H内に,噴気孔Hが形成され強い噴気が生じる(2017年4月22日撮影).D) 噴気孔Hから強い噴気が放出される(2017年5月5日撮影).
図6 噴気孔Hの経時変化
イタリック英字は同じ岩石を示す.A) 噴気孔H形成以前の地表状況(2016年11月5日撮影). B) 噴気孔H形成後の地表状況.直径約1.5mの噴気孔が形成され,孔の下方に岩塊が堆積している.孔の上方には泥の付着も認められる(2017年4月22日撮影).C) 噴気孔Hの拡大状況.岩石aが拡大した噴気孔の中に取り込まれる.岩石aとfの間に礫の堆積が認められる(2017年5月5日撮影).

(4) 噴気孔A
噴気孔Aは噴気域Aの南西端に形成され,形成に伴って土砂及び火山灰を放出した.前回報告ではヒアリングを元に4月28日~5月5日の間に形成されたとしたが,気象庁の霧島山(硫黄山南)カメラ(以下,硫黄山南カメラ)の画像から4月26日にこの土砂噴出が生じていたと推定される.

すなわち,硫黄山南カメラ画像によれば4月26日朝までは噴気域Aからの強い噴気は見られない.しかし,26日午前11時29分画像には噴気域A付近から,薄灰白色(薄い着色)の水蒸気プリュームが立ち上る様子を確認できる(図7).また,午前10時20分,11時7分にも薄い着色した白色噴気が見られる.午前10時20分~11時30分頃の噴気は南西向きに流れており,先に報告した火山灰の付着域の分布と一致する.噴気孔A周辺では土砂が北東側に拡がって堆積しているので,午前11時29分頃にサーマル雲が北東まで拡がり,その時に土砂が噴出したと推定される.

図7 2017年4月26日の気象庁硫黄山南カメラ静止画像
(http://www.data.jma.go.jp/svd/volcam/data/volc_img.php)

(5) 環状孔B
上記の噴気・噴湯孔の出現以外に,5月7日噴気域B付近において最大径2m以上の環状キレツが形成(環状孔B)を確認した.環状孔Bの中心には,深さ10~20cm程の陥没が5月7日に生じており,その後,陥没はさらに進行した。

図8 環状孔B及び噴気
最大直径2m以上の環状キレツが形成され,複数のキレツから噴気が生じている(2017年5月7日撮影)

引用文献

  • えびの高原自然保護対策協議会 (1987) 環境庁委託業務報告書 霧島屋久国立公園えびの高原地区における事故防止対策のための検討調査報告書,28-40.
  • 舟崎淳・下村雅直・黒木親敏 (2017) 霧島連山えびの高原,硫黄山の明治時代以降の地熱活動資料. 験震時報, 80, 1-11.
  • 気象庁 (2017) 霧島山の火山活動解説資料(平成29年3月). 1-28. http://www.jma-net.go.jp/fukuoka/
  • 田島靖久・松尾雄一・庄司達弥・小林哲夫 (2014) 霧島火山えびの高原周辺における最近15000年間の活動史. 火山,59,55-75.

(* 図・写真等は田島靖久氏による)
(火山噴火予知研究センター 中田 節也)


2017年5月10日

2017年5月10日の霧島山硫黄山噴気地帯の動画:

動画を再生するには画像をクリックしてください

(撮影:中田節也)


2017年5月11日

霧島山硫黄山火口周辺で発生した土砂噴出について

硫黄山火口の南側では,2017年3月19日,21日に2地点の噴湯孔,4月22日に轟音を伴う噴気孔の出現を確認するなど火山活動が活発化している.東京大学地震研究所及び霧島ネイチャーガイドクラブ等*が,5月5~10日に現地調査を実施し,硫黄山火口の南西縁において土砂噴出を伴う新たな噴気孔を確認したので,その結果を報告する.

  1. 硫黄山火口の南西縁での土砂噴出

新たに確認した噴気孔(以下,噴気孔A)は硫黄山火口の南西縁にあり,第137回火山噴火予知連絡会資料(その2の4霧島山,p78)に報告したB点付近に形成された.噴気孔Aは,深さ1m以上,長さが約1.5m四方の方形であり(図3),そこから強い噴気が放出されていた.本噴気孔は,4月22日に調査した際には生じておらず,地元での聞き取りからは4月28日~5月5日の間に出現したものと考えられる.

・噴気孔Aの周辺には土砂噴出物が認められ,土砂噴出物は噴気孔から北東及び南西方向に分布する.土砂噴出物に覆われた地表は暗灰色を呈する(図1,2).

・南西方向では,シルト質火山灰の付着によって地表が灰白色化しており,さらに延長方向では緑色葉上や岩の窪みなどに灰白色のシルト質火山灰が付着や沈殿しており,その痕跡は噴気孔Aから距離にして約200mまで追跡できる(図1).

・噴出物は上下2層からなり,下位は砂質火山灰,上位はシルト質火山灰である(図4)

・噴気孔A周辺の2ヶ所から採取した噴出物量は,それぞれ3.8 kg/m2,3.4 kg/m2であった(図1).噴出物は,噴気孔周囲の暗灰色の変色範囲をほぼ一様の厚さで覆っていると仮定し,2ヶ所の噴出物量の平均値と暗灰色域面積より,噴出物量は約1トンと概算される.

噴気孔A周辺に堆積した噴出物量は,その孔の大きさから推定される欠損量とほぼ一致する.噴出物の上位層が灰白色のシルト質火山灰であることは,先に噴気孔拡大が起こり,その後,泥を含む熱水が噴出したと考えられる.南西に拡がった火山灰の分布は,灰白色のシルト質火山灰から構成されており,泥を含む熱水の飛沫が強い風によって拡散することによって生じたと考えられる.本現象は,地表下のごく浅い所にある熱水溜まりの圧力が高まり地表を破砕し生じた土砂噴出と推定される.

(* 図面作成等は田島靖久氏による)

図1 硫黄山火口南西縁に形成された噴気孔Aから放出された土砂噴出物(火山灰)分布
四角は観測箇所.数値:堆積物量(kg/m2),+:堆積物あり,-:堆積物がわずかに認められる.
背景地図は国土地理院地図(電子国土WEB).左に県道1号線が南北に走る.
図2 噴気孔Aと周辺に分布する噴出物
図3 噴気孔A(5月5日撮影)
孔の縁には噴き上げられた土砂の高まりができている
図4 噴気孔A周辺での噴出物の堆積状況
下位は砂質火山灰,上位はシルト質火山灰によって構成される.

(火山噴火予知研究センター 中田 節也)