金曜日セミナー (2021年5月28日) 西川友章(京大防災研)

ニュージーランド・ヒクランギ海溝における群発地震活動検出:地震活動とスロースリップイベントの関係への示唆

要旨:
群発地震は明確な本震を伴わない地震の群れであり、しばしば地殻内流体の移動やスロースリップイベント(SSE)などの過渡的な非地震性現象に伴って発生する。ニュージーランド・ヒクランギ海溝沿いで発生するSSEは、群発地震活動を伴うことが知られている(Delahaye, 2009)。しかしながら、これまでヒクランギ海溝では群発地震活動の系統的な検出が行われたことはなく、群発地震活動の長期間にわたる時空間分布も明らかではない。そこで、本研究では、地震活動統計モデルの一種である時空間ETASモデルを用いて、ヒクランギ海溝沿いの群発地震活動(M3以上)を系統的に検出した。その結果、1997年から2015年までの期間に、119系列の群発地震活動が検出された。これらの群発地震活動の大部分はスラブ内地震であり、ニュージーランド北島の海岸線沿いの特定の地域で繰り返し発生していた。次に我々は、群発地震活動とGNSS時系列データや、既存のSSE・微動カタログを詳細に比較した。その結果、119系列の群発地震活動うち25系列は、既知のSSEや、本研究で新しく検出されたSSEと時空間的に近接して発生していた。さらに、群発地震活動がSSE・微動の発生に一週間以上先行したり、遅れたりする現象も確認された。「SSEの応力載荷による地震活動の誘発」という従来の群発地震活動誘発メカニズム(Fukuda, 2018)では、SSEに先行する群発地震活動を説明することはできない。そこで、我々は、ヒクランギ海溝沿いのSSEサイクルに伴う海洋地殻内流体圧の変化を捉えた先行研究(Warren-Smith et al., 2019)に注目し、「SSE発生前の地殻内流体の移動による地震活動の誘発」という新たな群発地震活動誘発メカニズムを提案する。