日本海粟島沖に設置した新規開発の小型ケーブル式海底地震観測システム

篠原雅尚・金沢敏彦・山田知朗・町田裕弥・真保敬・酒井慎一
Marine Geophys. Res., doi:10.1007/s11001-013-9197-1, 2013
日本海粟島沖に設置した新規開発の小型ケーブル式海底地震観測システム

日本は沈み込み帯に位置しており、プレート境界である海溝付近では、度々大きな地震が発生しています。海底での地震観測は、地震発生を研究する上において、重要なことです。ケーブル式海底地震観測システム(以下、OBCS)は、データをリアルタイムで陸上に伝送できることなどから、海底における地震観測としては、最適な方法です。しかしながら、現在、海域に常設してある地震観測点の数は十分ではありません。そこで、地震研究所では、新しい小型のOBCSの開発を継続して行ってきました。 地震研究所が開発したOBCSは、インターネット技術を用いた通信回線の冗長化による信頼性の向上、最新半導体技術を用いた地震計部の小型化などが特徴です。データは、光ファイバーを用いて伝送され、1本のケーブルに複数の地震計が直列に接続できます。通信部は、イーサネットスイッチを持っており、通信路に障害が発生したときには、スイッチを切り替え、他の通信路を確保します。最新の半導体技術を用いることにより、地震計部は、従来に比べて、体積比で10分の1に小型化されており(図1)、地震計、通信部、および電源は、直径が約15cm、長さ約50cmの円筒形のカプセルに収納されています(図2)。海底ケーブルの埋設と同時に、容易に地震計本体を海底下に埋設することができます。埋設により、観測データの品質向上が期待されると共に、漁業活動などとの干渉を避けることができるようになりました。 図1今回新規に開発したOBCSの内部ユニット 図1今回新規に開発したOBCSの内部ユニット 図2 日本海に設置したOBCS地震計部の外観 図2 日本海に設置したOBCS地震計部の外観 日本列島の日本海側及び日本海東縁部には「ひずみ集中帯」が形成されていて、これまで大きな被害地震が発生しています。開発したOBCSの1号機は、2010年8月に新潟県岩船郡粟島浦村(粟島)の南方、1964年新潟地震の震源域直上に設置されました(図3)。設置されたOBCSは、全長は25kmであり、海底地震計ユニット4台が約5km間隔で接続されています。また、水深が20mより深い部分では、地震計、ケーブル共に、海底から約1mの深さに埋設しました。海底ケーブルの一端は、粟島に陸揚げされており、データはインターネットを用いて、粟島から、地震研究所に伝送されています。2010年の設置以来、観測が継続しており、システムを埋設した効果により、質の高い地震データが蓄積されています(図4)。 図3 設置したOBCSの位置 図3 設置したOBCSの位置 図4 2011年3月11日24時間の連続記録 図4 2011年3月11日24時間の連続記録 なお、本論文は、Open Accessであり、http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11001-013-9197-1から自由にダウンロードできます。また、著作権は著者らが所有しております。

平賀岳彦准教授らの論文がNature誌に掲載

地球上部マントル内の拡散クリープ下でオリビン結晶は配列する

―オリビンの粒子形がマントル地震波速度異方性の成因?―

著者:宮崎智詞、末善健太、平賀岳彦

Nature Online Edition: 2013/10/17に掲載
Olivine crystals align during diffusion creep of Earth’s upper mantle
-Olivine crystal shape controls seismic anisotropy in the mantle?-
http://www.nature.com/nature/journal/v502/n7471/full/nature12570.html

成果の概要

上部マントルの主要鉱物であるオリビンが、粒界すべり卓越の拡散クリープ下で変形すると、結晶軸選択配向することをオリビンにおいて発見した。また、その配向パターンや強度は、温度条件やメルトの存在によって変化することも示した。これは、オリビン粒子形が特定の結晶面の発現により支配され、その発現が条件によって変化すること、および粒界すべりがその面で選択的に生じることで説明される。弾性異方性が強いオリビンが配向する事で地震波速度異方性が生じると期待され、その予想された異方性とその分布は、これまで強い異方性が観測されている上部マントル深さ130-210kmの領域に一致した。これまで、異方性の成因は、地球内部の転位クリープ(べき乗型クリープ)の結果とされてきたが、その数十年来の常識が見直される発見である。岩石に見られる他の鉱物の結晶軸選択配向および上部マントルよりさらに深い領域における地震波速度異方性が、今回発見されたメカニズムで岩石が流動した結果である可能性も出てきた。

本研究で予想された、マントルアセノスフェア内でカンラン岩の粒界すべり卓越拡散クリープ下で変形した場合のオリビンの粒子形とそれから予想される結晶軸配向の深度分布。観測された太平洋下での地震波速度異方性の分布が示されている。6角形、短冊形、丸型の粒子はそれぞれオリビンの低温、高温、ソリダス上での温度条件で現れる粒子形を現している。地震波速度異方性の特徴はオリビンの結晶軸配向パターンと強度から推定されている。VSH, VSV および VAve はそれぞれ、S波の水平、鉛直方向偏向波速度および平均速度である。

本研究で予想された、マントルアセノスフェア内でカンラン岩の粒界すべり卓越拡散クリープ下で変形した場合のオリビンの粒子形とそれから予想される結晶軸配向の深度分布。観測された太平洋下での地震波速度異方性の分布が示されている。6角形、短冊形、丸型の粒子はそれぞれオリビンの低温、高温、ソリダス上での温度条件で現れる粒子形を現している。地震波速度異方性の特徴はオリビンの結晶軸配向パターンと強度から推定されている。VSH, VSV および VAve はそれぞれ、S波の水平、鉛直方向偏向波速度および平均速度である。

地球上部マントル内の拡散クリープ下でオリビン結晶は配列する ―オリビンの粒子形がマントル地震波速度異方性の成因?―

宮崎智詞、末善健太、平賀岳彦

Nature Online Edition: 2013/10/17(Japan time)

地球上部マントル内の拡散クリープ下でオリビン結晶は配列する ―オリビンの粒子形がマントル地震波速度異方性の成因?―

上部マントルの主要鉱物であるオリビンが、粒界すべり卓越の拡散クリープ下で変形すると、結晶軸選択配向することをオリビンにおいて発見した。また、その配向パターンや強度は、温度条件やメルトの存在によって変化することも示した。これは、オリビン粒子形が特定の結晶面の発現により支配され、その発現が条件によって変化すること、および粒界すべりがその面で選択的に生じることで説明される。弾性異方性が強いオリビンが配向する事で地震波速度異方性が生じると期待され、その予想された異方性とその分布は、これまで強い異方性が観測されている上部マントル深さ130-210kmの領域に一致した。これまで、異方性の成因は、地球内部の転位クリープ(べき乗型クリープ)の結果とされてきたが、その数十年来の常識が見直される発見である。岩石に見られる他の鉱物の結晶軸選択配向および上部マントルよりさらに深い領域における地震波速度異方性が、今回発見されたメカニズムで岩石が流動した結果である可能性も出てきた。 本研究で予想された、マントルアセノスフェア内でカンラン岩の粒界すべり卓越拡散クリープ下で変形した場合のオリビンの粒子形とそれから予想される結晶軸配向の深度分布。観測された太平洋下での地震波速度異方性の分布が示されている。6角形、短冊形、丸型の粒子はそれぞれオリビンの低温、高温、ソリダス上での温度条件で現れる粒子形を現している。地震波速度異方性の特徴はオリビンの結晶軸配向パターンと強度から推定されている。VSH, VSV および VAve はそれぞれ、S波の水平、鉛直方向偏向波速度および平均速度である。 本研究で予想された、マントルアセノスフェア内でカンラン岩の粒界すべり卓越拡散クリープ下で変形した場合のオリビンの粒子形とそれから予想される結晶軸配向の深度分布。観測された太平洋下での地震波速度異方性の分布が示されている。6角形、短冊形、丸型の粒子はそれぞれオリビンの低温、高温、ソリダス上での温度条件で現れる粒子形を現している。地震波速度異方性の特徴はオリビンの結晶軸配向パターンと強度から推定されている。VSH, VSV および VAve はそれぞれ、S波の水平、鉛直方向偏向波速度および平均速度である。

火山灰サンプルから見た,霧島山新燃岳2011 年噴火の推移と2008 年以降の先駆的活動

 

鈴木由希 · 長井雅史 · 前野深 · 安田敦 · 外西奈津美 · 嶋野岳人 · 市原美恵 · 金子隆之 · 中田節也

Earth Planets Space, 65, 591–607, doi :10.5047/eps.2013.02.004, 2013

火山灰サンプルから見た,霧島山新燃岳2011 年噴火の推移と2008 年以降の先駆的活動

2011年の火山活動と2008年8月〜2010年6月の先駆的活動について,火山灰構成粒子の特徴·構成比·粒径分布,並びに,火山灰のバルク組成(全体の平均組成)をまとめた論文である.ここでは主な成果を紹介する.火山灰とは,直径が2mm以下の粒子からなる火山噴出物のことを指す.噴火直前までマグマであった”本質物質(マグマ物質)”と,火山体を構成していた”類質物質”という異なる起源の粒子があり,それらの比率は噴火へのマグマの寄与の度合いによって変化する.

マグマの寄与が大きい “マグマ噴火” では,火山灰と一緒に,マグマそのものが数cm大の軽石として噴出したり,溶岩として流出する.しかし多くの火山活動は,火山灰のみを放出する小規模噴火で始まり,また小規模噴火で終わることが多い(新燃岳では,それぞれ,2008年8月〜2011年1月19日と,2011年6月から8月; 図1).特に活動初期の火山灰についてマグマ物質の有無や量を調べることは,上昇しつつあるマグマの深度や規模を判断し,今後の活動を予測する上で極めて重要である.

新燃岳の2008年以降の噴火について,気象庁や鹿児島大等の協力を得ながら,火山灰即時観察を継続してきた.そのため2011年1月19日の噴火で初めてマグマ物質が出現したことを,同年1月26日以降の本格的なマグマ噴火の前に,見いだすことが出来た (http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/ul/EVENT/201101_Shinmoe_Material-1.pdf;  8 vol%の軽石粒子;図2).2011年活動終期の火山灰についてもマグマ物質の存在を確認し(図2),さらに,噴火への外来水の関与の有無も考慮することで,2010年6月までを水蒸気爆発期,2011年1月19日をマグマ水蒸気爆発,2011年6月から8月をマグマ水蒸気爆発期,と定義した(図1).

図1 火山灰から推定された2011年と先行的活動の特徴.各ステージの火山灰の特徴を四角枠に示している.写真のソースについては,論文参照(オープンアクセス).

図1 火山灰から推定された2011年と先行的活動の特徴.各ステージの火山灰の特徴を四角枠に示している.写真のソースについては,論文参照(オープンアクセス).

構成物に関する興味深いデータがある.マグマ物質が同量のサンプルについて,2011年1月末の最盛期前後で比較すると,新鮮溶岩/変質物質の比率が増加しているように見える(図2).これは, 1)火山体の変質部は破壊され易く,活動初期に選択的に噴出物になった,2)2011年1月末に火口に溶岩が定置した(図1),ことの双方の影響を見ているのかもしれない.

図2 火山灰構成物の時間変化(主に250-500m径;オープンアクセスの論文参照).ローズカラーは全て2011年のマグマに由来するカテゴリーである.すなわち,噴火毎のマグマ物質(軽石とスコリア)や,2011年1月末に火口に定置した溶岩(図1)由来の粒子である.2011年6〜8月については,火口溶岩の変質が進んでいたため(図1),溶岩粒子の分類は試みていない.

図2 火山灰構成物の時間変化(主に250-500μm径;オープンアクセスの論文参照).ローズカラーは全て2011年のマグマに由来するカテゴリーである.すなわち,噴火毎のマグマ物質(軽石とスコリア)や,2011年1月末に火口に定置した溶岩(図1)由来の粒子である.2011年6〜8月については,火口溶岩の変質が進んでいたため(図1),溶岩粒子の分類は試みていない.

 2011年1月19日の噴火を境にして,火山灰バルク組成と遊離結晶(結晶のみからなる火山灰中の粒子)の種類に変化が見られる.これは,2011年に活動したマグマと,火山体構成岩石(過去噴火の噴出物)との系統差によって引き起こされた.バルクSiO2量は,2011年1月19日を境にして低下する(図3).これは火山体の平均的なSiO2量に比べ,2011年のマグマのSiO2量が低い事(図3)を反映している.遊離結晶は2010年までは両輝石+斜長石+Fe-Ti酸化物であるが,2011年1月19日以降は,これに,かんらん石が加わる(図1).これは,過去噴出物にはかんらん石斑晶がないか,あっても数百ミクロン程度までであるのに対し,2011年のマグマには1mm前後の斑晶が存在することで引き起こされた現象である.

図3 火山灰と岩石試料のバルクデータ.岩石について,2011年活動はSuzuki et al. (2013, JVGR), 過去噴火は田島•他(2013)のデータを引用.2011年噴火の岩石試料のSiO2平均量は,(白色軽石の噴出物に占める割合が5%未満であるので),57-58wt. %程度とみられる.一方,過去噴火については,59-63wt. %に集中する.K2O量が岩石試料に比べ火山灰で系統的に乏しいのは,SiO2に富みK2Oに乏しい変質物質を含有している影響である(論文参照;オープンアクセス)

図3 火山灰と岩石試料のバルクデータ.岩石について,2011年活動はSuzuki et al. (2013, JVGR), 過去噴火は田島•他(2013)のデータを引用.2011年噴火の岩石試料のSiO2平均量は,(白色軽石の噴出物に占める割合が5%未満であるので),57-58wt. %程度とみられる.一方,過去噴火については,59-63wt. %に集中する.K2O量が岩石試料に比べ火山灰で系統的に乏しいのは,SiO2に富みK2Oに乏しい変質物質を含有している影響である(論文参照;オープンアクセス)

小原教授が米国地球物理学連合(AGU)フェローに選出

米国地球物理学連合(AGU)は世界100ヶ国以上に約62,000人の会員を持つ世界最 大の地球物理学の学会です.AGUではその全会員の0.1%(1000人に一人)を上限として,地球惑星科学への貢献のあった会員をフェローとして選出しています.

2013年は 62名のフェローが選ばれましたが,日本からは小原教授が選出されました.これまで地震研究所の現職教授でAGUフェローに選出されたのは,上田誠也(1975年),茂木清夫(1982年), 深尾良夫(1997年)の各名誉教授(現在), 佐竹健治教授(2010年)および川勝均教授(2012年)です.

自律式無人ヘリコプターを利用した繰り返し空中磁気測量 ―2011年霧島山新燃岳噴火後の事例―

Takao Koyama1, Takayuki Kaneko1, Takao Ohminato1, Takatoshi Yanagisawa2, Atsushi Watanabe1, and Minoru Takeo1

1Earthquake Research Institute, University of Tokyo/2IFREE, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology

Earth Planets Space, 65, 657–666, 2013

自律式無人ヘリコプターを利用した繰り返し空中磁気測量

―2011年霧島山新燃岳噴火後の事例―

2011年新燃岳噴火後の5月と11月の2度、無人ヘリコプターを用いて空中磁気測量を実施しました。本観測の主目的は、1)新燃岳および周辺の磁化構造を推定すること。2)噴火後の磁化の変化を抽出すること。の2点です。 2011年5月の観測において、新燃岳の西側の領域、東西2km×南北3kmの範囲を100mの測線間隔で対地高度およそ100m一定のフライトで磁気測定をおこないました。その結果、全磁力値46500~47500nTという1000nTにおよび大きな全磁力異常が検出されました。その測定データを元に磁化構造を推定したところ、平均磁化はおよそ1.5A/mという値が得られました。玄武岩質の伊豆大島などが10A/mを超える平均磁化を持つのに比べると、非常に小さな値であると言えます。磁化鉱物をあまり含まないアンデサイトであったこと、ランダムに降り積もった火山灰による見かけ上の磁化の減少、鉱物変質による磁化の弱化などがその要因として上がられます。 およそ半年後2011年11月に再び同じ領域で空中磁気測量を実施しました。5月の測定との差に着目しますと、最大で±100nTという大きな全磁力の時間変化が見られました。特徴としては、新燃岳の火口で顕著であり、火口の南側が正、北側が負というパターンであり、このことは、火口においてなにかが帯磁したことを示唆しています。 今回の新燃岳の噴火に際して火口での現象に着目しますと、以前あった火口湖が消失し、溶岩によって火口が満たされました。上述の帯磁したものとはこの火口内にあらわれた溶岩が冷却し帯磁したものであると考えられます。 この火口内の溶岩が帯磁したと仮定して周囲に及ぼす全磁力異常を計算したところ、測定データと非常によい一致が見られ、この仮定はおおよそ正しいものであったことがわかりました。 本研究のように、危険が伴い人が近づけない場所においても無人ヘリを使った磁気探査を行えば、接触することなく地下の温度の状況を把握できるという点で火山の内部の様子を調査する非常に有効な手段であることが実証できたと言えます。 左図は5月と11月の全磁力測定データの差、右図は火口内溶岩が帯磁したとして計算された全磁力異常。両パターンが非常によく一致していることがわかります。

2011年霧島山新燃岳噴火のマグマ湧出, 準プリニー式およびブルカノ式噴火に伴う地殻変動サイクル

Minoru Takeo1, Yuki Maehara2, Mie Ichihara1, Takao Ohminato1, Rintaro Kamata1, and Jun Oikawa1

1 Earthquake Research Institute, University of Tokyo / 2 Schlumberger K.K., Nagaoka, Japan

Journal of Geophysical Research, 118, doi:10.1002/jgrb.50278, 2013

2011年霧島山新燃岳噴火のマグマ湧出, 準プリニー式およびブルカノ式噴火に伴う地殻変動サイクル

2011年1月26日に約300年ぶりの本格的なマグマ噴火を開始した霧島山新燃岳は,1月26日〜27日の間に3回の準プリニー式噴火を,1月28日〜31日の間に山頂火口内にマグマを湧出する活動を,2月1日以降はブルカノ式噴火を繰り返すという,異なる様式の噴火活動を行った.この噴火活動の初期(1月26日〜2月7日)に,火口から1.5km以内の火口近傍で,広帯域地震計(地震研究所)と傾斜計(気象庁)の観測データがとられ,異なる噴火様式に伴いそれぞれに特徴的な地殻変動サイクルが検出された.この論文では,これらの地殻変動サイクルの特徴を整理すると同時に,繰り返し発生したブルカノ式噴火に伴う地殻変動サイクルの時間変化に注目して,ブルカノ式噴火に先行して火道内部がどの様な状態にあったのかを推測した.  1月26日午後3時半に発生した最初の準プリニー式噴火の約1時間半前から,火口近傍に設置された広帯域地震計と傾斜計には,山側(火口方向)が膨らむ傾斜変動が記録され始めた.この傾斜変動は徐々に大きくなりながら午後2時45分頃まで続き,その後いったん傾斜の増加は停止する.午後2時52分に小規模な水蒸気爆発が発生し,その後火口方向が収縮し始め,午後3時までに,火口側の膨らみの2/3ほどが戻っている.その後,傾斜変動はほとんど変化せず,30分後の午後3時半から,準プリニー式噴火が開始した(図1上を参照).準プリニー式噴火の間(午後3時半〜午後6時半)は,火口近傍の傾斜計は目立った変化を示さず,噴火停止後,再び火口側が膨らむ傾斜変動が記録されている.これは,噴火の勢いが弱くなり噴出物が火道内部を塞ぐことにより火道内部の圧力が増加したことを示唆している(図1下を参照).1月28日から31日にかけてのマグマ湧出期には,約1時間周期で火口が膨らんだり縮んだりする傾斜変動が記録され,30日,31日の変動が大きな時期には,この傾斜変動と同期して長周期地震が多発したり,火山性微動が発生している.

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図1

 

2月1日から大きな噴石を何キロも飛ばす ブルカノ式噴火(爆発的噴火)が頻発するようになり,2月7日までの一週間の間に22回のブルカノ式噴火を観測した.これらのブルカノ式噴火の全てで,噴火に先行して火口側が膨らむ傾斜変動が観測された.また,この先行する傾斜変動の継続時間は時間の推移とともに,きわめて規則的に長くなる特徴が見いだされた.一方,先行する傾斜変動の変化の仕方は,徐々に複雑な様相を呈するようになっていった.また,2カ所の観測点で記録された傾斜の比を調べると,ブルカノ式噴火の発生に近づくにつれて系統的に変化していることが明らかになった.この変化は,傾斜変動を作り出す変動源の中心が,噴火が近づくにつれて深くなっているということで説明することができる.このような観測事実を総合して,ブルカノ式噴火に先行して火道内部でどのような現象が起こっているかを推定したのが図2である.先行する傾斜変動の継続時間の規則的な変化は,火道深部からの火山ガスの供給が指数関数的に減少していくことで説明することができ,ブルカノ式噴火は火道内部の最も強度の強いマグマ組織が,その中に蓄積された火山ガスの圧力により破壊されることにより発生している.

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図2

 

津波波形からみた2011年東北地方太平洋沖地震のすべりの時空間分布

佐竹健治(東大地震研)・藤井雄士郎(建築研)・原田智也(東大地震研)・

行谷佑一(産総研)

Bulletin of Seismological Society of America,103,No2B 1473-1492(2013)

津波波形からみた2011年東北地方太平洋沖地震のすべりの時空間分布

東日本大震災を引き起こした2011年東北地方太平沖地震については,地震波・GPS・津波などのデータを使って断層面上のすべり分布のモデルが提案されてきました.これらに共通するのは,宮城県沖の震央付近で数十m以上という大きなすべりが発生したことですが,いくつか未解決の問題もありました.なかでも,津波の高さが震央から約100 kmも北の岩手県宮古市付近で最大となったことは,これまでのモデルでは説明されていませんでした.

2011年の津波波形は,東大地震研究所のケーブル式海底水圧計やGPS波浪計によって,波源域周辺の沖合や深海で記録されました.従来に比べて高品質・高分解能の津波波形が得られたことから,津波の源となったすべり分布の空間分布に加えて,時間変化も推定することができました.

その結果,地震(破壊)発生後約2.5分後にプレート境界のやや深部で25 m以上の大きなすべりが,さらに地震発生から約3分後に海溝軸付近で巨大なすべり(最大69 m)が発生したことがわかりました.この巨大なすべりは,地震発生から約4分後以降に北へ広がり,海溝沿いで20 m以上のすべりが発生しました.海溝軸付近ですべりが遅れて発生したことが,震央付近の宮城県でなく,岩手県沿岸で津波の高さが最大になった原因でした.

海溝軸付近の大きなすべりは,1896年明治三陸津波地震のモデルとよく似ていますが, 2011年の方がすべり量や断層長さはずっと大きいものでした.しかし,仙台平野への津波の浸水は,このような海溝軸付近のすべりでは再現できず,プレート境界深部のすべりが主な原因であることが確認されました.これは 869年貞観地震のモデルとしてすでに提出されていたものと同様に,プレート境界深部がすべることにより長波長の地殻変動を生じ,沿岸での津波が長周期となって浸水しやすくなったためです.

図1 小断層上におけるすべり量の時空間分布(時間間隔は30秒毎です).白星印は震源(破壊の開始点)を示します.

 

図2 2011年東北地方太平洋沖地震震源域の断面図.下は断層面を,上は鉛直改訂変位分布を示します.2011年東北地方太平洋沖地震は,プレート境界深部で発生した869年貞観地震タイプ(緑色)と,海溝軸付近で発生した1896年三陸津波地震タイプ(青色)の同時発生でした.

 

常時地球自由振動の相互相関解析によって明らかとなった、 全球的に伝わる実体波

K. Nishida

Geophys. Res. Lett., 2013, DOI: 10.1002/grl.50269

常時地球自由振動の相互相関解析によって明らかとなった、

全球的に伝わる実体波

地球内部の状態を知る上で、地震学的な手法は重要な役割を果たしてきました。”地震”が引き起す地震波は、固い場所を通ってくる場合には観測点に早く到達し、柔らかい場所を通ってくる場合には遅く到達します。1980年代以降、この“到着時間のずれ”をCTスキャンに似た方法で調べ、地球の3次元的な内部構造が明らかにされてきました(地震波トモグラフィー)。 “地震”が起きていない時期には、地球は振動してないのでしょうか? 実は、地球は常に海の波によって揺すられている事が知られています。脈動と呼ばれる周期5秒から20秒程度の地面の振動です。近年、大気や海の波が常時地球自由振動と呼ばれる周期数100秒のゆっくりとした振動を引き起こしていることも明らかになってきました。しかし脈動や常時地球自由振動は地震観測をする上での“ノイズ”であると長い間考えられてきました。脈動や常時地球自由振動は常に色々な方向から到来しているため、“地震”が引き起こした地震波を隠してしまうためです。本当に、” 脈動や常時地球自由振動を使って、地球の内部構造を調べる事はできないのでしょうか? 2004年にShapiro達は、脈動と呼ばれる周期10秒程度の海洋波浪起源の地震波(脈動)を使い、カリフォルニアの地殻構造を推定する事に成功しました。地震波が色々な方向から常に到来しているという事実を逆手に取り、脈動の伝わり方から地球の内部構造を調べたのです。地震波干渉法と呼ばれる方法です。その後、同種の研究が盛んに行われるようになりました。最近では長周期の地震波(常時地球自由振動)を使い、局所的な構造だけではなく全球的な構造も求められるようになってきました。 しかし、これら地震波干渉法の研究では、地震波の中でも主に表面波(Rayleigh波 、Love波)によって内部構造が調べられてきました。表面波を使う場合には、どうしても上部マントルより深い領域の構造を調べることは困難です。深い領域を調べるには実体波(図1中P波PKP波など)を使うことが非常に有効ですが、信号の大きさが小さいために技術的な困難がともないます。日本列島やヨーロッパ・スケールでは地震波干渉法により実体波を検出したという報告例はあります。しかし、全球的に伝播する実体波を検出したという報告例はまだありませんでした。 図1 本研究では、初めて地震波干渉法を使い、全球的に伝播する実体波の検出する事に成功しました。図2に結果を示します。PKP波(図1,図2参照)など、核を通る地震波波の検出にも成功しました。近年、全世界的に多くの地震計ネットワークが展開されています。その高品位、長期間(~10年間)かつ多量(~1000点)のデータが検出を可能にしました。 “地震”は非常に限られた領域で起きます。そのため、”地震”を使って地球の内部を調べる場合、詳細を調べることが出来る領域は限られてしまいます。地震波干渉法では地震計を設置さえ出来れば、そのような偏りを避けることが出来ます。将来、地震波干渉法は今まで診ることの出来なかった領域にも光を当て、新たな知見を与えてくれることでしょう。 図2

霧島山新燃岳2011年噴火における深部マグマ供給と浅部マグマ再移動 ―斑晶メルト包有物と相平衡実験からの制約―

著者:鈴木由希・安田敦・外西奈津美・金子隆之・中田節也・藤井敏嗣

Journal of Volcanology and Geothermal Research, 257, 184-204, doi:10.1016/j.jvolgeores.2013.03.017, 2013

霧島山新燃岳2011年噴火における深部マグマ供給と浅部マグマ再移動

―斑晶メルト包有物と相平衡実験からの制約―

“火山岩”は,地下のマグマが地表に噴出し急激に冷やされて出来たものです.その組織や組成には,形成に関わったマグマの種類,そして種類毎の地下での貯蔵•移動条件が記録されています.この研究では,新燃岳2011年噴火の火山岩の岩石学的研究を行うことで,新燃岳地下のマグマ溜まりの状態や,2011年噴火の誘発過程を探りました.このような情報は,次の噴火の兆候を地球物理学的観測により捉える上でも,重要です. 2011年噴火で出来た火山岩のほとんど,すなわち,1月末の爆発的噴火で放出された灰色や茶色の軽石,そして直後に火口に蓄積した溶岩は,組成差の有る2種のマグマが噴火直前に混合し出来たものです.2種のマグマは,噴火直前まで別々の深度に存在しました.深部にあった相対的に高温のマグマ(1030 °C,SiO2量55 wt.%)は, 10kmあるいは,さらに深いところから,5kmの深さの浅部マグマ(870 °C,SiO2量62-63 wt.%)に向けて上昇してきました.2種のマグマは大凡1対1の比率で混合しました(混合物は960–980 °C,SiO2量57–58 wt.%).低温マグマの極一部は,高温マグマと混合せずに,白色の軽石を生み出しました. 高温マグマの上昇していた深さは,上昇時に成長していた斑晶に取り込まれたマグマのメルト部分,”メルト包有物”,を分析することで決定することが出来ました.包有物は元のメルトの揮発性成分量を保持しています.ある深度でメルトに溶解することの出来る揮発性成分の量が分かっており,かつ,メルトが揮発性成分に飽和していたとみなせるならば,揮発性成分量から取り込みの深度が推定できるということです.加えて高温マグマの上昇が比較的短時間で起きたことは,高温マグマで晶出していた斑晶(カンラン石+斜長石)が,空隙の多い骸晶状であることから示唆されました.一方,低温マグマの貯蔵深度は,地下でのマグマ溜まりの状態を人工的に再現する”高温高圧実験”を実施し決定しました.白色軽石の粉砕物に噴火時に抜けてしまった水を加え,温度は既知の値(870 °C)に固定し,圧力のみを変化させた複数の実験を行いました.軽石の斑晶組み合わせ(複輝石+斜長石+Fe-Ti酸化物)や量を再現できる条件が,マグマ溜まりの実際の状態とみなされました. 測地学的研究によれば,噴火前のマグマ蓄積に伴う膨張・噴火時のマグマ噴出による収縮の圧力変動源は,共に新燃岳の北西7-8kmの地下に求められています.岩石学的に推定されたマグマ溜まりも,この北西地下にあると考えられます.複数の研究グループの成果によると,圧力変動源深度は6-10kmにあります.この深さが,低温マグマ溜まりよりも深いということは,噴火前には10〜5kmで高温マグマの蓄積が進み,また,噴火時に高温マグマが急激に浅所へ移動•噴出したことを意味することになるのでしょう. 混合する直前のマグマの斑晶量は,高温マグマの9vol.%に対し,低温マグマでは43vol.%でした.後者のような斑晶に富むマッシュ状(お粥状)マグマは,10の6乗Pa•sという高い粘性であったと見積もられ,これは固体に近い状態といえます.したがってマッシュ状マグマの噴出には,高温マグマとの混合により粘性が低下し,再流動化することが不可欠であったとみられます.再流動化に至るまで,段階的に高温マグマの注入が繰り返された可能性があり,これについては今後の研究が待たれます.磁鉄鉱斑晶に主眼を置いた本論文の予察的解析によれば,噴火直前の高温マグマ注入が最も大規模であり,それは地表への噴出の0.7–15.2 時間前に起きていたと定量化されました. 噴出物の岩石学的解析と,地殻変動の圧力変動源の位置から推定された,新燃岳2011年噴火のマグマ供給系.Ref. 1~3の矢印は,異なる研究グループ各々が推定した,噴火前並びに噴火時の圧力変動源の深度範囲.斑晶鉱物略称は,次のとうり.cpx, 単斜輝石;opx, 斜方輝石;pl, 斜長石;mt, 磁鉄鉱;ilm, イルメナイト;ol, カンラン石;low-An and high-An, 斜長石のAn成分に乏しい&富む.*は混合直前の値(高温マグマ).高温マグマについては,浅所に移動していく際の,カンラン石と斜長石の晶出順序にも制約を置きました.