南海トラフ沿いのスロー地震の発生域の特徴

S. Takemura1*, T. Matsuzawa2, A. Noda2, T. Tonegawa3, Y. Asano2, T. Kimura2 and K. Shiomi2 (2019). 1東京大学地震研究所, 2防災科学技術研究所, 3海洋研究開発機構

Geophysical Research Letters, 46(8), 4192-4201 https://doi.org/10.1029/2019GL082448 *論文投稿時は防災科学技術研究所

南海トラフの巨大地震発生域の浅い側(トラフ軸周辺)では、通常の地震と比べてゆっくりとしたすべり現象(スロー地震) が発生している。スロー地震の発生は、プレート境界の構造的特徴と関連があると考えられ、プレート境界の状態と巨大地震発生域の特徴を知る上で重要な手がかりとなると期待される。

我々はそのようなスロー地震発生域の特徴を調べるため、室戸岬沖から紀伊半島南東沖で発生するスロー地震(浅部超低周波地震)の特徴(空間分布、規模、メカニズム解)を詳細に調査した。本研究では、長期間の活動状況を調査するために防災科学技術研究所F-netの広帯域地震計記録を利用した。陸域の地震波形のみを用いて海域の地震を解析するには、海洋プレートや海洋堆積物などの海域特有の複雑な地下構造の影響の考慮が必要である。そこで、本研究では3次元不均質地下構造を用いたスーパーコンピュータによる地震波伝播シミュレーションに基づいて震源の特徴を推定するTakemura et al. (2018)の手法を適用した。

本研究により推定された2003年6月から2018年5月までに発生した浅部超低周波地震のメカニズム解の分布を図aに示す。プレート境界での断層運動を示唆する低角逆断層のメカニズム解が多く推定されたことから、浅部超低周波地震はプレート境界のすべりの状態をモニタリングする上で重要な現象であることがわかった。また、我々の解析手法ではメカニズム解と位置だけでなく、規模も正確に推定できることから、浅部超低周波数地震の活動度の定量的な評価(図b)が可能となった。

本研究の解析結果を既往の研究結果と比較したところ、スロー地震(浅部超低周波地震)がフィリピン海プレート上面のすべり欠損速度が大きい領域の周囲、かつ地震波速度が遅い領域で活発に発生していることが明らかとなった。

本研究で得られた2003年6月から2018年5月までの浅部超低周波地震のカタログは、論文のウェブページ(https://doi.org/10.1029/2019GL082448)とスロー地震データベース(http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/)にて公開されています。

図. 浅部超低周波地震の震源メカニズム解の空間分布と活動度の時間変化。浅部超低周波地震の震源球の色と活動度の時間変化のシンボルと線色を対応させてある。