プレート境界の応力集中域の周囲で発生する浅部超低周波地震

武村俊介1・野田朱美2・久保田達矢2・浅野陽一2・松澤孝紀2・汐見勝彦2

Geophysical Research Letters, 46 (21), 11830-11840, doi:10.1029/2019GL084666

1東京大学地震研究所, 2防災科学技術研究所

南海トラフのプレート境界において巨大地震が繰り返し発生しているが、それより浅部のプレート境界(トラフ軸周辺)では、通常の地震と比べてゆっくりとしたすべり現象(浅部スロー地震) が起きている。スロー地震は、プレート境界の構造的特徴や応力状態と関連があると考えられており、日本を含む世界中の沈み込み帯で精力的に調査が進められている。

本研究では、南海トラフのプレート境界浅部で発生する浅部超低周波地震(スロー地震の一種)について、防災科学技術研究所F-netの連続波形記録を用いたテンプレート解析に基づいて、小さな浅部超低周波地震を検知するとともに、震央位置を再決定することで、それらの活動の時空間変化を明らかにした。

Noda et al. (2018)が求めたプレート境界のすべり欠損速度の分布を利用して、プレート境界のせん断応力変化の空間変化を評価し、浅部超低周波地震の震央位置と比較した(図)。その結果、浅部超低周波地震は、プレート境界の応力集中域の周囲で頻繁に発生していることがわかった。また、せん断応力変化と浅部超低周波地震の発生数の関係(図b)から、浅部スロー地震活動はフィリピン海プレートの沈み込みによるせん断応力変化が大きく強度の強い固着域とせん断応力変化が小さい安定すべり域の間の遷移領域で活発に発生していることを明らかにした。

このような、フィリピン海プレート境界の摩擦強度の不均質性は、巨大地震の発生や破壊過程を考える上で重要である。 本研究で検知した浅部超低周波地震のカタログは、論文のウェブページ(https://doi.org/10.1029/2019GL084666)とスロー地震データベース(http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/)にて公開されています。

図 (a)南海トラフ沿いで発生する浅部超低周波地震の震央分布とプレート境界のせん断応力変化率の比較、(b)プレート境界のせん断応力変化率と浅部超低周波地震の発生数の関係。せん断応力変化率はNoda et al. (2018)によるフィリピン海プレート上面のすべり欠損速度より計算した。薄い/濃い青○印は浅部超低周波地震の震央で、それぞれテンプレートイベントとの相関係数が0.45または0.60より大きいものを示す。