武村俊介1・奥脇亮2・久保田達矢3・汐見勝彦3・木村武志3・野田朱美3
S. Takemura1, R. Okuwaki2, T. Kubota3, K. Shiomi3, T. Kimura3 and A. Noda3 (2020). Geophysical Journal International, 222 (2), 1109-1121, doi:10.1093/gji/ggaa238
1東京大学地震研究所, 2筑波大学, 3防災科学技術研究所
地震が発生すると、国内外の地震計で記録された地震波形の長周期成分を用いたセントロイドモーメントテンソル(CMT)解析が行われ、地震発生後10-30分程度で、発生時刻、位置、規模とメカニズム解(断層面上のすべり方)が推定される。推定されたCMT解は、地震学の基礎情報としてだけでなく、震源断層の評価や津波発生予測などの災害対応においても非常に有用な情報となる。
多くのCMT解析は、計算の簡便さから深さ方向の地震波速度変化のみを考慮した1次元構造モデルを用いて行われるのが一般的である。しかし、海域で発生した地震の場合、海洋プレートや海洋堆積物などの海域特有の地下構造の影響で地震波の伝わり方が複雑になるため、1次元構造モデルでは正確なCMT解を得ることが難しい。海底地震観測網の記録を利用することで、より正確な解析も可能だが、観測期間が2011年以降に限られている。
そこで、本研究では3次元地下構造モデルを用いたスーパーコンピュータによる地震波伝播シミュレーションに基づいて、陸域に敷設された防災科学技術研究所のF-netの波形記録を用いた高精度なCMT解析(3次元CMT解析)を実施した。解析対象とした地震は、2004年4月〜2019年8月に南海トラフ周辺で発生した中規模地震である。
本研究による3次元CMT解析(図の上段)の結果と従来の1次元解析(F-netカタログ:図の下段)を比較したところ、特に海域で発生した地震において地震メカニズムと深さに大きな差が現れた(図)。近年の地震について海底地震計を用いた解析結果と比較したところ、本研究による3次元CMT解析が、従来の1次元解析結果と比べ精度良くメカニズムと深さが推定できることを確認した。
本研究の手法(陸域地震計+3次元CMT解析)により求められた、2004年4月以降の15年間におよぶ南海トラフ沿いの地震カタログは、今後、スロー地震や測地学的に推定したフィリピン海プレートのすべり遅れと比較を進めることで、南海トラフのすべり特性の解明に貢献するものと期待される。
なお、本研究で推定した3次元CMT解析で得られた地震カタログは https://doi.org/10.5281/zenodo.3674161 にて公開しています。