馬場慧1・武村俊介1・小原一成1・野田朱美2
1: 東京大学地震研究所、2: 防災科学技術研究所
Geophysical Research Letters, https://doi.org/10.1029/2020GL088089
沈み込む海洋プレートのプレート境界面の固着域、すなわち巨大地震が発生しうる場所の周辺部では、通常の地震のほかに、スロー地震と呼ばれる、通常の地震よりもゆっくりとした断層破壊現象が発生しています。本研究ではスロー地震の一種である超低周波地震を用いて、プレート境界の固着状態(カップリング)を詳しく調べました。
巨大地震発生域の深部・浅部で発生する超低周波地震の理論波形を、3次元速度構造モデルを用いて計算し、これをテンプレートとする広帯域地震観測網F-netの連続波形記録との相互相関解析から、西南日本の超低周波地震を網羅的に検知しました。その結果、西南日本では、浅部と深部の超低周波地震はそれぞれプレート境界の深さ5–10 kmと30–40 kmで発生し、特に浅部での活動が活発なことがわかりました(図1a)。 本研究で検出された西南日本の超低周波地震と、既往研究(Baba et al. (2020, Journal of Geophysical Research; Solid Earth)で検出された東北日本の超低周波地震について、その活動度からモーメント解放レートを推定して、プレート境界のカップリングの空間分布と比較しました(図1)。浅部超低周波地震によるプレート境界の地震モーメント解放レートの値分布は、深部超低周波地震のものより大きくなっており、プレート境界浅部の不均質性が強いことが示唆されます。また、浅部超低周波地震の活動度とプレート境界のカップリングの程度には負の相関があり、カップリングの弱い領域ほど活発に活動していることがわかりました(図2)。さらに、流体が多く存在すると示唆される、地震波速度の遅い領域の周辺で超低周波地震活動が活発であることも明らかになりました(図1)。流体が豊富な領域では,プレート境界の摩擦強度が低く、カップリングが弱いことが考えられます。

