大地震の発生過程

加藤愛太郎 and Yehuda Ben- Zion(University of Southern California, Los Angeles)

Nature Reviews Earth & Environment, https://doi.org/10.1038/s43017-020-00108-w, (2020).

https://rdcu.be/caT5j  (オンライン アクセス可能)

地震は,地下で断層がずれ動くことで発生します。大地震がどのように発生するのか,つまり,断層がどのようにして動き出すのかという基本的な問題は,長年の間,謎のままです。大地震が始まる過程は,異なる時間・空間のスケールで進行する変形が関与しているため,とても複雑であり多様性にも富んでいます。本総説では,最近の観測・理論・実験的研究の成果をもとにして,大地震の発生過程について統合的なモデルを提案しています。

まず,前震と呼ばれる大地震の発生直前に近傍で生じる地震活動に着目して,既往研究により提唱されてきた3つの地震発生モデルの特徴をまとめています。次に,地震・測地データの分析により,いくつかの大地震(2019年リッジクレスト地震など)の発生前(数年前)に見られた,地下の広域変形が震源域周辺へと徐々に集中(局在)化した例を示しました。大地震の発生直前においては,移動を伴う前震活動やスロースリップが同時に発生することで,断層面近傍に変形の集中(局在)化が進み,大地震の発生を促進した例(2011年東北地方太平洋沖地震や2014年チリ北部地震など)についても議論しています。このプロセスは時間とともに段階的に進む点が特徴です。そのため,変形だけを見ていても,大地震の精度の高い直前予測は難しいことを意味します。この特徴は,断層のずれがなめらかに加速的に増加するという既往モデルの再考の必要性を提示しています。天然の断層はギクシャクとした断続的な動きをしやすく,力が十分たまっていれば小さな前震(破壊)でも大地震を引き起こすことが考えられます。

論文の後半では,スロースリップと地震発生の関連性に加えて,不均一の強い構造をもつ断層面を用いた近年の室内実験や理論研究にもとづいて,大地震発生に至るプロセスの多様性について議論しています。最後に,大地震に至る過程の多様性を説明できる統合的な地震発生モデルを提案するとともに,大地震の発生過程を理解する上で不可欠な今後の研究の見通しについて述べています。

図: 大地震の発生過程を示すモデル。(a) 地下の広域変形が,(b)震源域周辺へと徐々に集中(局在)化し,(c) 大地震の発生直前に前震活動やスロースリップが同時に発生することで,断層面近傍に変形の集中(局在)化が進み,大地震の発生が促進される。