1000点観測で見えてきた2000年鳥取県西部地震に伴う断層構造の複雑性

加藤愛太郎,酒井慎一,松本聡(九大),飯尾能久(京大)
Conjugate faulting and structural complexity on the young fault system associated with the 2000 Tottori earthquake
Communications Earth & Environment volume 2, 13 (2021)
https://www.nature.com/articles/s43247-020-00086-3

 2000年鳥取県西部地震(M7.3)の震源域に1000点の地震観測網を設置して,約1年間にわたり連続波形記録を取得しました。1000点規模の地震計をある地域に高密度に展開して長期間の観測を行うことは珍しいことです。取得した波形データを用いて,高い精度で震源分布と地下の地震波(P波)速度構造の推定(空間分解能0.5 km)に成功しました。

 震源分布から推定された地下の断層形状はとても複雑で,北北西-南南東走向の断層面だけでなく西南西―東北東の共役関係にある断層面も複数分布することが,様々なスケールにおいて明らかになりました。また,断層面の深部形状は,震源域北西部では北東側へ傾斜するのに対し,震源域南東部では南西側へ傾斜しており,ねじれていることも分かりました。すなわち,大地震は平らな1つの断層面で起きるのではなく,共役断層も含めた複数の断層面がずれることで発生していることを意味します。

 P波の速度構造の特徴を見てみると,震源域北西部に顕著な低速度域が存在し,その境界は西南西―東北東走向の断層面に一致することが明らかになりました。また,2000年鳥取県西部地震の発生時に大きくずれた領域は,全体的にP波速度が大きい特徴があることも分かりました。

 低速度域に存在する断層の長さ200 mの地震活動の集まり(クラスター)を調べてみると,厚さ10 m以下のとても狭い領域に集中しており,4つの板状構造(長さ~30 m)に分かれていることが示されました。さらに,この地震活動は,約30 m/日の速さで断層面に沿って深い側へと移動していたことも判明しました。この移動速度から判断すると,地下で流体が移動することで地震活動が誘発された可能性が考えられます。このように,断層構造の複雑性と流体の移動が地震活動のパターンに影響を与えていることが示されました。

 本地震観測を遂行するに当たり,関係自治体,関係機関,住民のボランティアの方々,0.1満点観測グループの方々の多大なるご協力をいただきました。また,(株)近計システムの方々には機器開発からデータ整理に至るまでご尽力をいただきました。記して,心から敬意と感謝の意を表します。

図1.地震観測網の配置図.(a) 2000年鳥取県中部地震の震源域(青四角).(b)地震観測点の位置(赤色四角形),震央分布(青色丸)と2000年鳥取県中部地震の震央(赤星印).(c)解析した地震の規模別累積度数分布.(d)P波速度構造の推定に使用した格子点の分布(×印)。