2011年新燃岳噴火に伴う調和型微動のモデル

武尾 実 (東京大学名誉教授・地震研究所外来研究員)

Harmonic tremor model during the 2011 Shinmoe-dake eruption, Japan

Geophysical Journal International 224, 2100-2130 (2021) https://doi.org/10.1093/gji/ggaa477

 2011年霧島新燃岳噴火の際には,マグマ湧出期からブルカノ式噴火の初期に掛けて調和型微動が多数発生した.調和型微動は多くの火山で観測されるが,その発生機構は未だ明らかになっていない.この論文では,火道(マグマの通り道)浅部での火山性流体の流動をモデル化して,観測された調和型微動の特徴を再現する事を試みた.調和型微動に関するこれまでの観測研究は,多くがその周波数のピークにのみ注目して,位相の特徴(波形の事)は解析対象としてこなかった.本研究では,微動源の近傍で観測したデータの長所を生かして,周波数のピークのみならず位相の特徴も含めて観測データを再現する事で,調和型微動の発生機構に迫ることを目指した.この論文では,局所的に強度の弱い領域がある流路内を粘性流体が流れる状態をモデル化し,非振動的なエネルギーの変化(例えば,火道深部の圧力)でも振動を引き起こす自励振動が発生する事を示した.さらに,2011年新燃岳の活動期間中に観測された代表的な調和型微動について,火道深部の圧力を変化させるだけで,その周波数構造や波形の特徴を微動の始まりから終わりまで再現する事に成功した.図1の右上側には,波形の特徴を比較するために相図 (観測データとその積分を2次元グラフで示した図)とそれに対応する観測波形を,時間帯(a,b,c,d)毎に示してある.右下側には,モデルから計算される流路狭窄部の面積変化の相図と波形を示してある.両者はよく一致しており,この結果は,調和型微動の発生機構として火山性流体の流動が有力なメカニズムである事を示している.