東北沖地震震源域に設置した海底ケーブル地震津波観測システム OBCSTの開発と運用

篠原雅尚・山田知朗・植平賢司(防災科学技術研究所)・酒井慎一・塩原肇・金沢敏彦(現在地震予知総合研究振興会)

Development and Operation of an Ocean Bottom Cable Seismic and Tsunami (OBCST) Observation System in the Source Region of the Tohoku-oki Earthquake

Earth and Space Science, 8, e2020EA001359. https://doi.org/10.1029/2020EA001359

海底ケーブル式地震津波観測システムは、海域においてリアルタイム観測が可能な点が優れています。我々はインターネット通信技術(ICT)を用いた新しい小型の海底ケーブル式地震津波観測システムを開発しました。新しいシステムでは、ICTが持つ冗長性を用いてシステムの信頼性を確保しました。最新電子技術を用いたソフトウェアベースのシステムを開発することにより、製作コストと設置後の運用維持経費を削減しました。開発したシステムをOBCSTと名付け、2011年東北地方太平洋沖地震の震源域である三陸沖に2015年に設置しました。周辺の海底観測システムと併せて、多くの海底観測点を用いて地震活動と津波を観測することが目的です。システムは、設置直後から地震と津波(水圧変化)の観測を継続しています。地震観測における雑微動ノイズの大きさはこれまでのシステムとほぼ同じであり、多くの微小地震や遠地地震が観測されています。海底下1 mに埋設した観測点では海底に置いた観測点よりノイズが小さくなりました。高精度圧力計の環境的ノイズは海面の高さ変化1 cmに対応する1 hPa程度と小さく、また、埋設した観測点でも実際の津波を適切に観測することができました。設置したシステムは観測装置の環境データも計測しています。長期間稼働が期待される観測装置の動作温度が、安定して低く抑えられていることもわかりました。

図の説明
新しく開発した海底ケーブル式地震津波観測システムの観測装置の写真。円筒形の耐圧容器は、直径約26 cm、長さ約1.3 mです。観測装置は2種類を開発しました。タイプFAは、地震センサーとして加速度計と津波センサーの圧力計を内蔵しています。タイプFBは加速度計と水中着脱コネクタを用いたPoE(*注)インターフェイスを搭載しています。左下は水中ロボットが撮影した海底でのタイプFBです(観測点名はYOB3)。水中ロボットは、2016年10月11日に水深1,570 mの海底に潜航しました。設置する前に取り付けた水圧計とPoEインターフェイスが確認できます。
(*注)PoE: パワー・オーバー・イーサネット、通信を行うLANケーブルを用いて、電源も供給する技術