首都圏下のフィリピン海プレート構造に関する新たな知見:首都圏稠密地震観測網を活用した地震波異方性トモグラフィー

石瀬素子,加藤愛太郎,酒井慎一,中川茂樹,平田直

Improved 3-D P wave azimuthal anisotropy structure beneath the Tokyo metropolitan area, Japan: New interpretations of the dual subduction system revealed by seismic anisotropy

Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 126 (2021)

https://doi.org/10.1029/2020JB021194

 

 本研究では,首都圏に整備された非常に密な地震観測網(MeSO-net)の地震データを用い,「地震波異方性のイメージング」という既往の研究とは異なる観点から首都圏下に沈み込んだプレート構造を3次元で詳細にイメージング(トモグラフィー)を行いました.

 先行研究では,沈み込んだプレート(スラブ)の形状は,地震波速度に基づいて推定されていますが,本研究では,速度に加えて地震波異方性を考慮して首都圏下のフィリピン海スラブの構造を考えました.その結果,これまではフィリピン海スラブの海洋性地殻と考えられていた部分はスラブ内の低速度異常領域であり,スラブの表面はより浅部に位置することが分かりました.また,フィリピン海スラブの北東端においては,これまではフィリピン海スラブの海洋性地殻だと考えられていた部分が,大陸プレートのマントルウェッジであることが新たに分かりました.これにより,従来のモデルと比べ,フィリピン海スラブの表面(図1右のオレンジ部分)の深さが浅く,その先端がより南(図1左の伊豆半島上のAの部分が、図1右のAの部分に一致)に位置することが推定されました.  

 今後,S波速度構造についても解析を進め,フィリピン海プレートの構造モデルの精緻化を進めていきます.

図1 (左)本研究で使用した地震(〇)と観測点(△)分布,および断面の測線位置.(右)測線ABCに沿った断面での解釈図.

灰色の点線は既往研究(Sato et al., 2005)によるフィリピン海(PHS)スラブの上面.青実線が本研究で推定されたPHSスラブの上面を示しています.東京湾の下で約5㎞の違いが見られます.EとEpは,それぞれ,本研究と既往研究(Uchida et al., 2009)によるフィリピン海スラブの北東端位置を示しています.本研究で推定されたスラブの先端は,先行研究と比べて約50 km南西に位置します.黒×印は断面周辺で発生した地震を表わしています.ラベルH,R1,R2,R4は,等方性速度の速い/遅いと異方性の方向から区分された領域を表わしています.それぞれ,H:フィリピン海プレートのマントル,R1:大陸プレートの地殻の一部,R2:フィリピン海プレートの海洋性地殻,R4:大陸プレートのマントルウェッジに相当すると考えています. パネル(a)-(c)は,それぞれ,PHSスラブの海洋性地殻(R2),スラブマントル(H),マントルウェッジ(R4)内の異方性の方向のローズダイヤグラムです.