巨大地震発生前後におけるプレート間非地震性すべり速度の長期的変化

五十嵐 俊博・加藤 愛太郎

Evolution of aseismic slip rate along plate boundary faults before and after megathrust earthquakes

Communications Earth & Environment 2, 1, 1-7 (2021)

https://www.nature.com/articles/s43247-021-00127-5

 
 波形のよく似た地震を相似地震といいます。ほぼ同じ場所で異なる時刻に発生した相似地震(小繰り返し地震) を検出することにより、プレート境界に沿った非地震性すべりの時空間的変化を推定できます。

 本研究では、日本の高密度地震ネットワークで記録された地震波形の相互相関を計算することにより、1989年から2016年の間に世界中で発生した中規模相似地震の検出を行いました。その結果、各地域で沈み込むプレートの境界に沿って多くの相似地震が発生していることが明らかになりました。

 また、相似地震の規模、発生位置と発生間隔の情報を利用して、太平洋およびインド洋周辺におけるプレート間非地震性すべりの空間分布と時間的特徴を調べました。その結果、プレート間巨大地震が発生したいくつかの地域では、プレートの平均相対速度よりも速くすべっていることが分かりました。巨大地震の余効すべりによって、通常よりも多くの相似地震が誘発されたためと考えられます。一方、その他の地域で推定されたすべり速度は、プレートの相対速度(背弧拡大速度を含んだもの)と同程度かそれよりも小さい値でした。プレート境界が強く固着していることを示しています。

 巨大地震発生前後におけるすべり速度と経過時間の関係を調べたところ、すべり速度は各地震の破壊直後に急激に増加し、その後10年程度かけて徐々に減少していました。これは震源周辺で余効すべりが発生していることと関連しています。一方、地震発生から30年以上経過すると、すべり速度は徐々に増加していく傾向が見られます。地震サイクルの中盤から後半にかけてすべり速度が増加する傾向は、沈み込み帯で蓄積される応力レベルの上昇と関連していると示唆されます。

 今回得られたプレート間非地震性すべりの時空間的特徴は、巨大地震発生サイクルにおけるすべり速度の長期的な変化を理解するための有用な枠組みを与えるものと考えられます。

 今回得られた中規模相似地震カタログは、こちらのページ(https://www.nature.com/articles/s43247-021-00127-5)からダウンロードできます。また、日本列島周辺の小繰り返し地震カタログ はhttps://earth-planets-space.springeropen.com/articles/10.1186/s40623-020-01205-2からダウンロードできます。あわせてご活用ください。

図キャプション:図1.(a)沈み込むプレート境界で発生した相似地震から推定した平均すべり速度(期間は1989年9月15日から2016年2月29日まで)。十字は、1923年以降に発生したMw8.3以上のプレート間地震の震央を示す。(b)巨大地震発生前後のすべり速度と経過時間の関係。すべり速度は各地域のプレート収束速度で規格化した。