2016年福島県沖地震によるS-net水圧計の津波波形のデータ同化と沿岸津波波形の予測


王 宇晨,佐竹 健治
Real-Time Tsunami Data Assimilation of S-net Pressure Gauge Records during the 2016 Fukushima Earthquake

Seismological Research Letters 922145-2155, 2021

doi: 10.1785/0220200447.

 2011年東日本大震災による甚大な津波被害の後,日本海溝海底地震津波観測網(S-net)が防災科研によって構築されました.S-netは150点の地震計と海底水圧計からなり,データは海底ケーブルによってリアルタイムで気象庁などに送られています.

 2016年11月22日に福島県沖でM7.4の地震が発生し,気象庁によって津波警報が発表されました.この津波はS-netの海底水圧計に記録されました.本研究では,S-netの28観測点で記録された津波記録について,津波シグナルの自動検出アルゴリズムと津波数値シミュレーションとを組み合わせ,三陸沿岸の検潮所における津波の到来とその波形を到着前に予測できることを示しました.この予測方法は津波データ同化と呼ばれ,震源や津波波源の情報に基づかずに,沿岸での津波波形を正確に予測するものです.

 S-netに記録された津波波形について,二通りの方法で処理して,津波データ同化に用いました.一つ目は,潮汐成分を多項式近似で取り除き,ローパスフィルターで高周波成分を除くものです.二つ目は,Ensemble Empirical Mode Decomposition (EEMD)と呼ばれる方法で,実データから津波シグナルを経験的に検出する手法で,実時間での自動処理に適した方法です.

 これらの方法を使ってS-netの水圧計から津波波形を検出し,それらをデータ同化して三陸沿岸の津波波形を予測したものを,宮古,釜石,大船渡,鮎川の検潮所で実際に記録された津波波形と比較しました.津波発生から35分間に沖合で記録された津波波形を使って予測したところ,二つの方法での予測精度はそれぞれ60%,74%でしたが,検潮所までの津波経路にS-net観測点が少ない鮎川と,検潮所付近の海底地形が複雑でシミュレーションに地形効果を十分に取り入れることができない釜石を除くと,精度は89%,94%となりました.この結果は,S-netに記録された津波波形の自動検出とデータ同化によって,津波警報を行うことが可能であることを示しています.


本研究は,科研費(JP16H01838及びJP 19J20293)よる助成を受けました.