広帯域MT・ネットワークMT法による跡津川断層周辺域の地下電気比抵抗構造

臼井嘉哉, 上嶋誠, 小河勉,他18名

Electrical Resistivity Structure Around the Atotsugawa Fault, Central Japan, Revealed by a New 2-D Inversion Method Combining Wideband-MT and Network-MT Data Sets

JGR Solid Earth Vol. 126, Issue 4 (2021) https://doi.org/10.1029/2020JB020904

 跡津川断層は、富山県南部から岐阜県北部に存在する活断層で、「マグニチュード7クラスの内陸地震を起こしてきたこと」、「新潟-神戸ひずみ集中帯というひずみ速度が大きい領域に存在すること」、「地球物理学的手法を用いた複数の研究が行われてきたこと」から断層における歪(ひずみ)の蓄積過程や内陸地震の発生メカニズムを明らかにする上で重要な場所の1つです。

 私たちは跡津川断層の地下の流体の分布を明らかにするため、跡津川断層周辺(図1)で地表の電磁場を観測し、そこから電気比抵抗構造を推定しました。電気比抵抗は地中の間隙流体の量とそのつながり方に強い感度があります。そのため、活断層下の電気比抵抗が低い領域は地下深部の間隙流体が関与していると考えられます。観測の結果、図2に示すように跡津川断層、牛首断層、高山・大原断層帯周辺の下部地殻に電気比抵抗が低い領域が局在することが明らかになりました。断層直下にのみ電気比抵抗が低い領域(図2の赤)が局在しているのは、変形により水がつながったまま存在しやすくなっているためで、そこに脆弱な変形域が集中していることを示唆しています。

 なお、本研究では電磁場を用いた一般的な地下構造探査法であるmagnetotelluric(MT)法に加えて、ネットワークMT法という地震研究所で開発した手法を用い、両手法のデータを統合解析しました。ネットワークMT法は電話回線を用いて電場を観測することに特徴があり、広範囲にわたって地下深部の情報を得ることが可能です。