地震波よりも早く到達する重力ベクトルの変化から断層傾斜角とマグニチュードのそれぞれが決定可能に

木村将也, 亀伸樹, 綿田辰吾, 新谷昌人(東京大学地震研究所), 功刀卓(防災科学技術研究所), Wang, Rongjiang(Helmholtz Centre Potsdam, GFZ)

Determination of the source parameters of the 2011 Tohoku‑Oki earthquake from three‑component pre‑P gravity signals recorded by dense arrays in Japan
Earth, Planets and Space (2021) 73:223 https://doi.org/10.1186/s40623-021-01553-7

地震の動的破壊は、断層周辺と地震波が伝播する場所の両方に質量の変化をもたらします。これにより生じる重力ベクトルの変化はほぼ瞬時に伝わるため、P波より早く地震観測点に到達します。このP波の前に到達する重力ベクトル信号(P波前重力信号)は幾つかの大地震で検出されてきましたが、観測記録の垂直成分に限られていました。これは水平記録の雑音レベルが高いためです。本研究は、2011年東北地方太平洋沖地震(Mw 9.1)に対するHi-net高密度傾斜計アレイデータを解析し、水平成分のP波前重力信号を探しました。現実的な地球構造モデルに対して計算された3成分合成波形の信号強度の分布(図1)に基づいて水平成分記録をスタッキングし、雑音レベルを明瞭に超えた水平信号を特定しました(図2a)。さらに、F-net広帯域地震計アレイデータの垂直信号(図2b)と組合せ、波形逆解析から震源パラメータを推定し、地震の傾斜角とマグニチュードをそれぞれ11.5–15.3°とMw 8.75–8.92の範囲に制約しました。従来の「地震波形」の解析においては、浅い地震に対して傾斜角とマグニチュードは二律背反の関係にあり両者を同時に決定できませんでした。本研究は、P波前重力信号の3成分を解析することで、この二律背反問題を解決できることを示しました。これはP波前重力信号が、地震の震源研究のための新しい観測窓を開いたことを意味します。

図1.P波前重力信号合成波形の信号強度の分布(単位1 nm/s2, a.東西成分, b.南北成分,c.上下成分)
図2. P波前重力信号のスタック波形. a. 水平成分, b. 上下成分, 黒:合成波形, 赤:観測記録