新規開発した浅海用係留ブイ方式海底地震計と陸上観測点による2019年山形県沖の地震の精密な余震分布

篠原雅尚1・酒井慎一1・岡田知己2・佐藤比呂志1・山下裕亮3・日野亮太2・望月公廣1・悪原岳1

1東京大学地震研究所、2東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター、3京都大学防災研究所地震予知研究センター宮崎観測所

Earth, Planets and Space (2022) 74:5, https://doi.org/10.1186/s40623-021-01562-6

 
 2019年6月18日22時22分頃、山形県酒田市沖の深さ約14kmを震源とするマグニチュード6.7の地震(山形県沖地震)が発生しました。西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、震源域は陸域既設地震観測網近傍の海域でした。そのため、精密な余震分布を求めるためには、震源域直上における海底地震計による観測が必要です。そこで、山形県沖地震の活動と地震発生場の特徴を正確に把握するために、震源域直上において海底地震計を用いた臨時観測と、震源域近傍の海岸線付近において陸上臨時観測を実施しました。海域部については水深100m以下の浅海であり、通常の自己浮上式海底地震計での観測は困難です。そこで、浅海用に新しく係留ブイを用いた海底地震計を開発し、観測を行いました。海底の地震計測部は計測センサーとして3成分地震計とハイドロフォン(水中圧力を測定)を用いています。また、計測部装置の海底での姿勢を把握するために、2成分の傾斜計と方位計を持っています。係留ブイに地震計測部をつなぐシステムは、漁業に用いられているシステムを基として開発しました。今回の観測で、浅海での地震観測では係留ブイ方式が優れていることが明らかになりました。
 2019年7月5日に水深約80mの震源域直上に3基の係留ブイ方式海底地震計を設置し、2基を同年同月13日に回収しました。3成分地震計をもつ陸上臨時観測点を同時に設置しました。得られたデータから地震のP波及びS波の到着時刻を読み取り、高精度震源決定を実施しました。その結果、山形県沖地震の余震は深さ2.5kmから10kmの間で発生しており、南東に位置する震源ほど震源が深いことがわかりました。さらに、余震群をプロットすると南東に傾き下がるような面を形成しており、本震の発震機構から得られる断層面と調和的であることがわかりました。また、活動域は上部地殻の上部域に限定されていることもわかりました。余震の発震機構は多くは本震とよく似た逆断層型でしたが、正断層型や横ずれ型の地震も発生していました。東北日本の日本海側は、2011年東北地方太平洋沖地震発生前には圧縮応力場でしたが、東北沖地震発生により緩和されたことが推測されています。今回の地震の特徴はこのような東北沖地震発生後の日本海側の応力状態を反映していると考えられます。


図の説明
左:開発した浅海用係留ブイ方式海底地震計の構成図と設置時の写真。右:2019年7月5日から13日までの臨時観測網による震源分布と観測点分布。