三陸沖海底ケーブルを用いた分散型音響センシング技術による海底地震観測

篠原雅尚1・山田知朗1・悪原岳1・望月公廣1・酒井慎一2,1

1東京大学地震研究所、2東東京大学情報学環

Front. Mar. Sci. 9:844506. doi: 10.3389/fmars.2022.844506

 
 光ファイバ自身をセンサーとして用いて歪みを計測する分散型音響センシング(DAS)は、近年様々な分野で用いられるようになってきており、地震観測にも適用されています。DAS計測では最も短い観測点間隔を数mにすることができて、計測できる総延長距離は50 km以上となっています。また、1秒間に数百回以上の早い時間間隔のデータ取得も可能です。このような性質をもつDAS計測は空間的に高密度の地震観測を実施可能であり、このDAS計測を海底ケーブル光ファイバに適用することにより、海底における観測量を爆発的に増加させることができます。東京大学地震研究所は、1996年に三陸沖に光ファイバをデータ伝送に利用した海底地震津波観測システムを設置しました。この海底地震津波観測システムは、データ伝送に用いる光ファイバの予備が備えられています。そこで2019月2月から、この海底観測システムの予備光ファイバを用いたDAS観測を行ってきました。その結果、マグニチュード1.8の微小地震を含む多くの地震がDAS計測システムにより観測されることがわかりました。マグニチュード3の地震についてはP波およびS波の到着が明瞭に記録されていました。さらに、2,300 km離れたマグニチュード6.6の地震も記録されていました。三陸沖海底地震津波観測システムは、従来の地震計を装備しており、DAS計測と通常の地震計の記録の比較が可能です。比較の結果、DAS計測の記録は従来の地震計の記録によい一致を示しました。DAS計測のノイズレベルも調査し、時間的な変動はほとんどないことを確認しました。また、DAS計測の特徴を生かすことにより、これまでよくわからなかった海岸付近から沖合に向けての詳細な地震学的な雑微動の空間変化を明らかにできました。2020年11月には、DAS計測と制御震源を用いた構造探査調査を行い、制御震源についてもDAS記録が従来の地震計記録とよく一致することを確認しました。ただし、DAS記録では制御震源からのP波の振幅が小さく記録されていました。これは、DAS計測が光ファイバと平行な歪みを計測しており、光ファイバを内有する海底ケーブルが海底に横たわっていることと関係があると考えられています。


図の説明
左:2019年2月のDAS計測による複数の地震の記録例。右:2019年2月(上)と2021年3月(下)に行ったDAS計測による海底の雑微動の空間的な変化。海岸から沖合に向けて、雑微動が大きく変化することがわかる。