三陸沖海底ケーブルを用いた地震波干渉法による詳細な堆積層・最上部地殻のS波速度構造推定

福島駿1,2, 篠原雅尚2, 西田究2, 竹尾明子2, 山田知朗2,蓬田清3
1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2. 東京大学地震研究所、
3. 北海道大学 理学院 自然史科学専攻 地球惑星ダイナミクス分野
Earth Planets and Space (2022) 74:92, https://doi.org/10.1186/s40623-022-01652-z

 
 近年,光ファイバに伝わる歪みを数m間隔で数十kmの長距離で測定することができるDistributed Acoustic Sensing(以下 DAS)が地球科学分野にも応用され、光ファイバをセンサとした地震観測が行われ始めています.DASデータは稠密度のアレイ観測であるため、地震波速度構造が高分解能で推定されることが期待できます.東京大学地震研究所では,三陸沖に設置した光ケーブル式海底地震・津波観測システムを利用して,DAS観測を行なってきました.先行研究では,短周期(周期2秒以下)のレイリー波の位相速度を計測し,深さ約3kmまでの堆積層のS波速度構造が推定されています.しかし,それらは堆積層最上部層に限定されていました. そこで,本研究では,堆積層及び,島弧側上部地殻構造のS波速度構造の高分解能推定を目指し,DASデータに対して地震波干渉法を用いて表面波の抽出を行い,その位相速度から堆積層最下部から上部地殻のS波速度構造を推定しました.また,地震波干渉法を行う前に,周波数-波数フィルターを適用することで,効率よく表面波が抽出できることを示しました.

 
 海域では,制御地震探査によるP波速度構造推定が頻繁に行われてきた一方で,S波速度構造の高分解能推定は困難でした.しかし,本研究で提案した手法により堆積層全体のS波速度構造の高分解能推定が可能となり,これまでの制御地震探査によるP波速度構造と合わせることで,沈み込み帯の流体分布を知る上で重要となるVp/Vs比を推定できることが期待されます。


図左上: 本研究で使用した海底地震ケーブル.東京大学地震研究所・三陸沖・光ケーブル式海底地震・津波観測システムを利用したDAS観測を行った.左下:DASデータに対して地震波干渉法を行い抽出した表面波.右:本研究で推定した釜石沖ケーブル直下のS波速度構造.