2021年福徳岡ノ場噴火における海水とマグマとの相互作用のプロセスを解明

前野 深1・金子隆之1・市原美恵1・鈴木雄治郎1・安田 敦1・西田 究1・大湊隆雄1
1: 東京大学地震研究所

Maeno, F., Kaneko, T., Ichihara, M., Suzuki, Y.J., Yasuda, A., Nishida, K. and Ohminato, T.
Seawater-magma interactions sustained the high column during the 2021 phreatomagmatic eruption of Fukutoku-Oka-no-Ba. Commun Earth Environ 3, 260 (2022).
https://doi.org/10.1038/s43247-022-00594-4
https://www.nature.com/articles/s43247-022-00594-4

【論文のポイント】

  • 2021年8月13日に小笠原諸島・福徳岡ノ場で発生した噴火の表面現象と推移を,遠隔観測,噴出物分析,モデリングにもとづき詳細に明らかにした。
  • 浅海での火山噴火では,海水とマグマとの相互作用により噴出物の運搬・堆積過程や噴煙の形成過程が陸上の噴火とは大きく異なることを明らかにした。
  • 本研究で明らかとなった浅海での爆発的噴火の特徴やプロセスは,海域火山噴火に伴う諸現象とハザードの理解を進めることに貢献する。

【発表内容】

 火山噴火が浅海で起きた場合に海域特有のさまざまな現象とハザードが生じることが最近の事例(西之島,福徳岡ノ場,フンガ火山)で浮き彫りとなった。発生する現象の中でもとくにマグマ水蒸気爆発のメカニズムの理解を進める上で,これらの事例は重要である。マグマ水蒸気爆発に関する研究は古くからあるが,マグマと外来水との爆発的相互作用のプロセス,外来水との混合比率に対する噴煙高度の関係など不明な点も多い。2021年8月13日に発生した小笠原・福徳岡ノ場火山(FOB)での噴火はこのような問題に取り組むための貴重な機会を提供する。本研究ではこの噴火の高解像度時系列記録(衛星,インフラサウンド),地質・物質科学的データ,噴煙モデリングにもとづき表面現象の分析を行い,浅海におけるマグマと海水との相互作用のプロセスについて考察した。

 FOB噴火は浅海底で始まったがジェットは海面を突き抜け,高度16 kmの水に富む噴煙を形成した。衛星Himawari-8は噴火の早い段階から浮遊軽石が給源から湧き出す様子を捉えた(図1)。衛星および父島での空振観測データにもとづくと,噴火最盛期の8月13日12時から20時頃まで,スルツェイ式噴火注1)とは異なる特徴の持続的な傘型噴煙および空振が発生した(図1の青色バー)。この間に火砕密度流の発生も確認されている。これらの活動により給源付近では海が埋め立てられ新島(タフコーン)が形成された。およその地形変化と漂流軽石の分布域にもとづく噴出量は0.03–0.1 km3(DRE)と推定される。

図1: 2021年FOB噴火の遠隔観測による時系列データ。a: ひまわり8号が捉えた発達中の噴煙。b: ひまわり8号による噴煙直径(南北方向)の変化(上)と父島で記録された5-15Hz帯域のインフラサウンド(下)。時刻は日本時間。逆三角形はFOBからの低周波信号であることが確認されたもの。青色バーは持続的噴噴煙柱の発生時刻を示す。赤矢印は2021年8月14日8時30分に発生した典型的なスルツェイ山噴火のシグナルを示す(図a中のiv)。c: Phase 1開始時の噴出源付近の拡大図。漂流軽石が上流に向かって拡大していく。気象庁が取得したひまわり8号の画像をNICT(情報通信機構)デジタル台風プロジェクトが処理したもの。

 岩石の全岩化学組成はトラカイト,石基ガラス組成はSiO2 ~68 wt.%であった。主要な軽石の石基ガラス中のSO3濃度および斜長石中のメルト包有物のSO3濃度の差分からSO2脱ガス量を~73.3 ppmと推定した。この分析結果と,新島および漂流軽石の体積(噴出量)をもとにSO2放出量を2万数千トン以下と推定した。衛星観測にもとづくSO2放出量の暫定値は数万トンのオーダーと推定され,地質・岩石から推定した値と大きくは矛盾しない。このことは,観測されたSO2放出量は新島形成と漂流軽石に関わった火砕物のみで概ね説明できることを意味する。さらにマグマ噴出率,海水混合率,噴煙高度の関係を,1次元噴煙モデルを用いて検討したところ3–6 × 105 kg/sの噴出率により噴煙高度の観測結果を説明できることがわかった。この推定では噴出源において漂流軽石が熱のみを噴煙に与える効果を考慮した。

 得られた結果を統合すると,8月13日の噴火最盛期について次のようなプロセスが考えられる(図2)。
 (1) 海底火口直上の噴煙(ジェット)周縁部では海水が高い比率で混合し密度が増加するため,この部分は海面を突き抜けることができずに火砕物は主に水中,水面に拡散した。マグマの熱は海水の気化と噴煙全体の密度低下に寄与した。(2) 噴煙(ジェット)コア部分では海水との混合は限定的であり,取り込んだ海水の気化・膨張により浮力を獲得し高い噴煙を生じた。噴煙の根元で海水との混合比率が大きくなった場合は密度が増加し火砕密度流が発生した。(3) これらの結果,噴出源付近では大量の火砕物が集積し,漂流軽石の発生や陸化が急速に進んだ。海水–大気境界という媒体の大きな物性コントラストが,噴煙による熱物質の輸送過程に大きな影響を及ぼしたことが今回の噴火の最大の特徴と考えられる。

図2: 2021年FOB 噴火時の噴出源付近でのプロセス。後半のスルツェイ式噴火は,外来水の利用可能性と,火砕物の蓄積に起因した低噴出率の噴火によってコントロールされていた可能性がある。

 FOB噴火は噴出量0.1 km3に達する規模の噴火であったが,(水蒸気)プリニー式噴火注2)であったことを示す証拠は十分に揃っていない。また,高度16 kmに達する持続的噴煙柱を形成したという点で,浅海で発生するより規模の小さいスルツェイ式噴火注1)とも異なる。観測とモデリングは,マグマ(軽石)に加熱された海水が気化することで大量の水蒸気が発生し,噴煙の成長が促進されたこと,大気中に拡散した噴煙に大量の火砕物が含まれている必要はないことを示す。以上の点からFOB噴火は,観測史上ほとんど例のない「大規模なマグマ水蒸気爆発」であったと考えられる。
 本研究により,浅海での爆発的火山噴火の特徴やプロセスがはじめて詳細な時系列データにもとづき明らかになった。これらの結果は,海域火山噴火に伴う諸現象,とくにマグマ水蒸気爆発や漂流軽石の発生メカニズムやそれらに伴うハザードの理解を進めることに貢献する。


注1)スルツェイ式噴火: 浅海でマグマと海水が接触して発生する爆発的噴火で,鶏の尾状のジェットを間欠的に噴き上げたり火砕サージを発生したりする噴火様式。非定常的かつ低い噴出率でマグマを噴出し,噴煙の規模も小さい場合が多い。アイスランド・スルツェイ火山の浅海での噴火に由来する名称。日本国内では,福徳岡ノ場における1986年噴火や2021年噴火の後半,2013年からの西之島噴火の初期の活動などで認められた。


注2)プリニー式噴火: 定常的かつ高い噴出率でマグマを噴出し,成層圏に達するような持続的噴煙柱と傘型噴煙を形成して広域に軽石や火山灰を飛散させるような噴火様式。イタリア・ベスビオ火山の典型的な噴火様式でもある。日本国内では1914年桜島大正噴火,1783年浅間山天明噴火などで知られている。水蒸気プリニー式噴火は,外来水の影響によりプリニー式噴火がより激しくなったもので,広域に噴出物を飛散させるが,プリニー式噴火より細粒の火山灰を大量に生産する噴火として特徴付けられる。