岩森光(地震研)、中村仁美(産総研)、森川徳敏(産総研)、高橋正明(産総研)、稲村明彦(産総研)、原口悟(地震研)、西澤達治(富士山科学研)、坂田周平(地震研)
Iwamori et al. (2023) Groundwaters and deep-seated fluid circulation around
Aso Volcano, Southwest Japan, revealed by multivariate statistical analysis
of the geochemical data. J. Volcanol. Geotherm. Res. (JVGR).
https://authors.elsevier.com/a/1gMw81LkU3cJqC
地下水(温泉水、鉱泉水、湧水)の組成は、流体の物質源と移動・循環中のプロセスを反映し、地下の状態やダイナミクスの貴重な情報源となる。多種の溶存成分濃度と同位体比、および温度、pHなどの物理化学情報を解析することにより、天水(雨水)を起源とする比較的浅部の流体・循環系と、沈み込んだプレート由来の深部流体を識別し、両者の関係性や地質・テクトニックな構造との対応関係を紐解くことが可能となる。本研究では、阿蘇カルデラを含む九州中部のおよそ120 ㎞(東西)×80 ㎞(南北)の領域に分布する590試料の地下水について、主要12溶存成分、および水素、酸素、ヘリウム同位体比、温度、pHを観測変量として起源物質と循環・反応を分離検出可能な多変量統計解析を行った。その結果、(1)阿蘇カルデラ内に同心円状の組成構造が存在すること、(2)別府―島原地溝帯や布田川・日奈久断層帯などの大きな構造線沿いに有馬型塩水が出現することなど、地下水の組成・起源と、空間分布に強い関係性があることが分かった(図)。これらは、従来の地下水組成解析方法(例えば、Piper図を用いた方法)では検出できない。また、浅部での流体循環および沈み込んだスラブ由来の深部流体の上昇が明瞭に識別され、九州中部は火山域・非火山域にかかわらず、ほぼ全面的に深部流体のフラックスを受けていることが分かった。