2012年スマトラ地震によって活断層などで誘発された微動

Kevin Chao(1,2), 小原一成(2)
(1)マサチューセッツ工科大学,(2)東京大学地震研究所

Journal of Geophysical Research, Solid Earth, 29 Dec. 2015, 10.1002/2015JB012566

2012年スマトラ地震によって活断層などで誘発された微動

 2000年代初めに発見された深部低周波微動は,沈み込みプレート境界におけるスロースリップと同時に発生していることが西南日本とCascadiaで明らかにされたことで,スロースリップのプロキシと理解されるようになってきました.深部低周波微動とスロースリップとの同時発生現象は,通常数カ月から2年程度の間隔で自然発生的に生じますが,遠方で発生した大地震の表面波の位相に同期して微動が誘発される現象がしばしば観測されます.このような誘発微動が発生する場所では,自然発生的な微動,さらにはスロースリップが発生する可能性が示唆されます.われわれは,2012年4月に発生したスマトラ地震(マグニチュード8.6)の表面波が日本列島を通過した際に,西南日本のフィリピン海プレート境界以外を含めた全国的な調査を実施し,活断層等で発生した誘発微動を新たに発見しました.

調査には,全国に展開されている防災科学技術研究所の高感度地震観測網Hi-netの連続波形データを用い,スマトラ地震の表面波が通過する時間帯で,2~8 Hzの帯域の波形記録について表面波との相関関係を確認し,誘発微動の有無を調べました.その結果,北海道中央部,関東地方北西部,九州西部の八代海,九州東方沖の日向灘などで誘発微動が検出されました.北海道の微動は,2004年12月のスマトラ地震の際にも確認されており(Obara, 2012),火山活動に関係すると考えられます.また,日向灘のイベントは浅部超低周波地震の震源域に対応することから,それに伴う浅部微動が誘発したものと解釈されます.日向灘における浅部微動の存在は,最近になって海底地震計による観測でも明らかにされました(Yamashita et al., 2015).一方,関東及び八代海の微動は,それぞれ近傍に関東平野北西縁断層帯,布田川・日奈久断層系の八代海海底断層群が存在し,また微動の発生深度は約20 ㎞で下部地殻に相当することから,活断層の深部延長部におけるスロースリップと考えられ,定常的にもゆっくり滑っている可能性があります.このことは,これらの断層における地震発生ポテンシャルの評価に大きく貢献するものと考えられます.

 

誘発微動obaraFig
図.2012年4月11日に発生したスマトラ地震によって誘発された深部低周波微動.色付きの大きな丸が今回検出された誘発微動で,白抜きの小さな丸は以前の研究で検出されている誘発微動である.各波形はそれぞれの地域における表面波トランスバース成分記録及び水平動成分の2-8 Hzのバンドパスフィルター記録で,時刻ゼロがスマトラ地震の発震時を示す.小さい黄色の丸印は2003年から2012年までの西南日本に発生した深部低周波微動,橙色の星印は浅部超低周波地震である.