西田究 市原美恵
Geophys. J. Int. (2016) 204, 748–752 doi: 10.1093/gji/ggv478
西之島の空振活動を父島でモニタリング
2013年11月20日に海上保安庁により新島の形成が報告されて以来、小笠原諸島・西之島では活発な噴火活動が続いています。一般にアクセス可能な小笠原村父島であっても東に130km離れており、連続的な観測情報は非常に限られています。しかし気象条件が良ければ、空振 (人には聴こえない低周波音波)は100km以上離れていても伝わることがあります。そのため、父島での観測から西之島火山の活動状況を把握できる可能性があります。そこで父島に、オンライン空振観測点(EV.CHI)1点とオフラインの空振計3点(OGW1,OGW2,OGW3)を設置し(図1)、西之島火山の空振モニタリングを開始しました。本研究では特に、オンラインの2点のみを使っても空振のモニタリングが可能であることを示しました。
図2に実際に観測された空振の観測例を示します。西から東向きに空振が伝播する様子を見て取れます。この図では空振計だけではなく、気象庁の短周期地震計記録(CHIJI3の東西成分)も示しています。このように、空振は地震計にもしばしば観測されます。これは、空振(大気の圧力変動)が地面を押し、その結果として引き起こされた地面の変動を地震計が捉えることがあるためです。
まずはオンライン2点の解析結果(相互相関解析)を見てみましょう。図3の上段のグラフは,地震計と気圧計の振幅を表しています.青が三日月山の地震計東西成分,緑が気象観測所の気圧計の振幅です.また,下段の図で,縦軸ゼロ付近の赤と青のパターンが,西之島火山の空振を検出していることを意味しています.そして,中段のグラフ(青線)が,マイクの信号の中にどのくらい空振が入っているかを示すものです.割合が小さくなる原因として,(1)風のノイズが大きくなる,(2)空振が小さくなるの2つが考えられます。これら2つの効果を考慮し空振の大きさを見積もったのが中段の赤点です。
この結果を検証するため、オフライン3点を含めた解析(アレー解析)を行いました(図4)。その結果、オンライン2点での観測結果と調和的な結果が得られました。これらの解析結果から、父島で観測される空振活動は、基本的には西之島と父島の間の気象条件(気温・風速)で決まることがわかってきました。下段の図赤の領域(気象条件を表す量である実効音速の速い領域)と、空振活動が対応していることがわかると思います。しかし、2015の1/1から2週間程の期間、気象条件は整っているにもかかわらず、空振活動が低調であることが分かってきました。つまり、西之島での噴火活動が低調だったと推測できます。この結果は、気象データと合わせて考えると、遠く離れた父島で観測された空振活動から西之島の噴火活動を把握できる可能性を示しています。
全観測点を用いた解析結果。空振の到来方向、伝播速度、振幅を示しています。振幅と一緒に気象条件(実効音速の高度分布)を示しています。実効音速とは、風の効果を含めた音速です。風下側に伝播する音速を考える場合は、風速の分だけ早く伝搬することを考慮しています(父島での気象庁によるラジオゾンデの観測結果から計算しました)。赤色の領域は実効音速が速い事を表しており、この領域が”フタ”となって、風下側に遠くまで伝えます。
火山の近くに地震計は設置されているが、空振計は設置されていないという状況は多く見受けられます。本研究結果は、地震観測点のそばに1点オンライン空振計を設置することにより、噴火活動をモニタリング出来る可能性があることを示唆しています。
謝辞:空振観測に当たっては,小笠原村役場,気象庁のご協力を得ています。記して感謝します。