高森昭光・新谷昌人(東大地震研)・森井亙(京大防災研)・寺田聡一(産総研)・
内山隆・大橋正健(東大宇宙線研)
Technologies 2014, 2(3), 129-142; doi:10.3390/technologies2030129
自動アラインメント制御を用いた100m絶対長レーザー干渉計によるひずみ観測
地震に伴う地殻の伸び縮みや、スロースリップ現象などによるゆっくりとした地殻変動を観測することによって、震源周辺の地殻の特性や地球内部の構造を知る手がかりを得ることができます。
地震研究所ではレーザー干渉計を応用したひずみ計を2種類開発して、岐阜県の神岡鉱山の地下約1000mに設置、観測を行っています(図1)。マイケルソン干渉計型の装置と、この研究テーマであるファブリ・ペロー型光共振器を用いた絶対長レーザー干渉計です。これらのレーザー干渉計では量子基準を用いて非常に安定で精度の高い観測を行うことができるのが特徴です(関連文献参照)。特にマイケルソン型干渉計では最高レベルの分解能での観測を行うことができます。ただし、測定できるのはひずみの変化量のみなので、長期の観測中のトラブルや、急激に大きなひずみ変化が生じた場合などには観測が不連続になってしまう可能性があります。一方、絶対長レーザー干渉計は、その名の示す通り、地下トンネル内の2点間の距離(約100 m)を、20~200 nm(1nmは10億分の1メートル)という精度で正確に測定することが可能です。これはマイケルソン干渉計よりもやや劣りますが、距離の絶対値をいつでも観測できるため、マイケルソン型の苦手とする長期間、急激な大ひずみの観測に適しています。
絶対長レーザー干渉計では、100 m離した2地点に向かい合わせに鏡を設置してファブリ・ペロー型光共振器を作り、そこにレーザー光と、このレーザーから少し周波数をずらした光(サイドバンド)を同時に共振させ、常にその状態を保つようにレーザー波長とサイドバンド周波数を制御します。すると、逆にサイドバンド周波数から共振器の長さの絶対値を求めることができます。サイドバンド周波数を測る基準としてルビジウム原子時計を用いることによって、長期にわたって安定で精度の高い観測を行うことが可能になっています。
この研究の特色は、鏡の傾き制御(自動アラインメント制御)を行ったことです。自動アラインメント制御を行うことによって、共振器の状態を一定に保ち、長期にわたる安定、連続した観測を実現するねらいがあります。制御システムを設計するために、鏡の傾きに対する透過光の強度変化を予測するモデルをつくり、透過光が極大となる傾きについて、前後の鏡の間の相関を定量的に明らかにしました(図2)。透過光量が最大となる最適点は1点のみ存在するので、常にその状態にとどまるように鏡の傾き制御を行いました。制御システムの実装にあたって独自の手法として機械変調法を採用し、前後2枚の鏡の縦・横方向への傾き4自由度を分離して検出することに成功しました(図3)。
絶対長レーザー干渉計によって観測された現象には、2007年の日本海地震(図4a)や能登地震(図4b)があります。このうち、能登地震では急激に大きなひずみ変化が生じたためマイケルソン型では観測が中断してしまいましたが、絶対長レーザー干渉計では地震前後の距離の絶対値を測ることによって、ひずみ量を正確に知ることができました。このように、マイケルソン型と絶対長レーザー干渉計を組み合わせることによって、お互いの強みを生かしたひずみ観測システムを構築することに成功しています。
関連文献:
Araya, A.; Takamori, A.; Morii, W.; Hayakawa, H.; Uchiyama, T.; Ohashi, M.; Telada, S.; Takemoto, S. Analyses of far-field coseismic crustal deformation observed by a new laser distance measurement system. Geophys. J. Int. 2010, 181, 127–140.