Minoru Takeo1, Yuki Maehara2, Mie Ichihara1, Takao Ohminato1, Rintaro Kamata1, and Jun Oikawa1
1 Earthquake Research Institute, University of Tokyo / 2 Schlumberger K.K., Nagaoka, Japan
Journal of Geophysical Research, 118, doi:10.1002/jgrb.50278, 2013
2011年霧島山新燃岳噴火のマグマ湧出, 準プリニー式およびブルカノ式噴火に伴う地殻変動サイクル
2011年1月26日に約300年ぶりの本格的なマグマ噴火を開始した霧島山新燃岳は,1月26日〜27日の間に3回の準プリニー式噴火を,1月28日〜31日の間に山頂火口内にマグマを湧出する活動を,2月1日以降はブルカノ式噴火を繰り返すという,異なる様式の噴火活動を行った.この噴火活動の初期(1月26日〜2月7日)に,火口から1.5km以内の火口近傍で,広帯域地震計(地震研究所)と傾斜計(気象庁)の観測データがとられ,異なる噴火様式に伴いそれぞれに特徴的な地殻変動サイクルが検出された.この論文では,これらの地殻変動サイクルの特徴を整理すると同時に,繰り返し発生したブルカノ式噴火に伴う地殻変動サイクルの時間変化に注目して,ブルカノ式噴火に先行して火道内部がどの様な状態にあったのかを推測した. 1月26日午後3時半に発生した最初の準プリニー式噴火の約1時間半前から,火口近傍に設置された広帯域地震計と傾斜計には,山側(火口方向)が膨らむ傾斜変動が記録され始めた.この傾斜変動は徐々に大きくなりながら午後2時45分頃まで続き,その後いったん傾斜の増加は停止する.午後2時52分に小規模な水蒸気爆発が発生し,その後火口方向が収縮し始め,午後3時までに,火口側の膨らみの2/3ほどが戻っている.その後,傾斜変動はほとんど変化せず,30分後の午後3時半から,準プリニー式噴火が開始した(図1上を参照).準プリニー式噴火の間(午後3時半〜午後6時半)は,火口近傍の傾斜計は目立った変化を示さず,噴火停止後,再び火口側が膨らむ傾斜変動が記録されている.これは,噴火の勢いが弱くなり噴出物が火道内部を塞ぐことにより火道内部の圧力が増加したことを示唆している(図1下を参照).1月28日から31日にかけてのマグマ湧出期には,約1時間周期で火口が膨らんだり縮んだりする傾斜変動が記録され,30日,31日の変動が大きな時期には,この傾斜変動と同期して長周期地震が多発したり,火山性微動が発生している.
図1
2月1日から大きな噴石を何キロも飛ばす ブルカノ式噴火(爆発的噴火)が頻発するようになり,2月7日までの一週間の間に22回のブルカノ式噴火を観測した.これらのブルカノ式噴火の全てで,噴火に先行して火口側が膨らむ傾斜変動が観測された.また,この先行する傾斜変動の継続時間は時間の推移とともに,きわめて規則的に長くなる特徴が見いだされた.一方,先行する傾斜変動の変化の仕方は,徐々に複雑な様相を呈するようになっていった.また,2カ所の観測点で記録された傾斜の比を調べると,ブルカノ式噴火の発生に近づくにつれて系統的に変化していることが明らかになった.この変化は,傾斜変動を作り出す変動源の中心が,噴火が近づくにつれて深くなっているということで説明することができる.このような観測事実を総合して,ブルカノ式噴火に先行して火道内部でどのような現象が起こっているかを推定したのが図2である.先行する傾斜変動の継続時間の規則的な変化は,火道深部からの火山ガスの供給が指数関数的に減少していくことで説明することができ,ブルカノ式噴火は火道内部の最も強度の強いマグマ組織が,その中に蓄積された火山ガスの圧力により破壊されることにより発生している.
図2