常時地球自由振動の相互相関解析によって明らかとなった、 全球的に伝わる実体波

K. Nishida

Geophys. Res. Lett., 2013, DOI: 10.1002/grl.50269

常時地球自由振動の相互相関解析によって明らかとなった、

全球的に伝わる実体波

地球内部の状態を知る上で、地震学的な手法は重要な役割を果たしてきました。”地震”が引き起す地震波は、固い場所を通ってくる場合には観測点に早く到達し、柔らかい場所を通ってくる場合には遅く到達します。1980年代以降、この“到着時間のずれ”をCTスキャンに似た方法で調べ、地球の3次元的な内部構造が明らかにされてきました(地震波トモグラフィー)。 “地震”が起きていない時期には、地球は振動してないのでしょうか? 実は、地球は常に海の波によって揺すられている事が知られています。脈動と呼ばれる周期5秒から20秒程度の地面の振動です。近年、大気や海の波が常時地球自由振動と呼ばれる周期数100秒のゆっくりとした振動を引き起こしていることも明らかになってきました。しかし脈動や常時地球自由振動は地震観測をする上での“ノイズ”であると長い間考えられてきました。脈動や常時地球自由振動は常に色々な方向から到来しているため、“地震”が引き起こした地震波を隠してしまうためです。本当に、” 脈動や常時地球自由振動を使って、地球の内部構造を調べる事はできないのでしょうか? 2004年にShapiro達は、脈動と呼ばれる周期10秒程度の海洋波浪起源の地震波(脈動)を使い、カリフォルニアの地殻構造を推定する事に成功しました。地震波が色々な方向から常に到来しているという事実を逆手に取り、脈動の伝わり方から地球の内部構造を調べたのです。地震波干渉法と呼ばれる方法です。その後、同種の研究が盛んに行われるようになりました。最近では長周期の地震波(常時地球自由振動)を使い、局所的な構造だけではなく全球的な構造も求められるようになってきました。 しかし、これら地震波干渉法の研究では、地震波の中でも主に表面波(Rayleigh波 、Love波)によって内部構造が調べられてきました。表面波を使う場合には、どうしても上部マントルより深い領域の構造を調べることは困難です。深い領域を調べるには実体波(図1中P波PKP波など)を使うことが非常に有効ですが、信号の大きさが小さいために技術的な困難がともないます。日本列島やヨーロッパ・スケールでは地震波干渉法により実体波を検出したという報告例はあります。しかし、全球的に伝播する実体波を検出したという報告例はまだありませんでした。 図1 本研究では、初めて地震波干渉法を使い、全球的に伝播する実体波の検出する事に成功しました。図2に結果を示します。PKP波(図1,図2参照)など、核を通る地震波波の検出にも成功しました。近年、全世界的に多くの地震計ネットワークが展開されています。その高品位、長期間(~10年間)かつ多量(~1000点)のデータが検出を可能にしました。 “地震”は非常に限られた領域で起きます。そのため、”地震”を使って地球の内部を調べる場合、詳細を調べることが出来る領域は限られてしまいます。地震波干渉法では地震計を設置さえ出来れば、そのような偏りを避けることが出来ます。将来、地震波干渉法は今まで診ることの出来なかった領域にも光を当て、新たな知見を与えてくれることでしょう。 図2