著者:鈴木由希・安田敦・外西奈津美・金子隆之・中田節也・藤井敏嗣
Journal of Volcanology and Geothermal Research, 257, 184-204, doi:10.1016/j.jvolgeores.2013.03.017, 2013
霧島山新燃岳2011年噴火における深部マグマ供給と浅部マグマ再移動
―斑晶メルト包有物と相平衡実験からの制約―
“火山岩”は,地下のマグマが地表に噴出し急激に冷やされて出来たものです.その組織や組成には,形成に関わったマグマの種類,そして種類毎の地下での貯蔵•移動条件が記録されています.この研究では,新燃岳2011年噴火の火山岩の岩石学的研究を行うことで,新燃岳地下のマグマ溜まりの状態や,2011年噴火の誘発過程を探りました.このような情報は,次の噴火の兆候を地球物理学的観測により捉える上でも,重要です. 2011年噴火で出来た火山岩のほとんど,すなわち,1月末の爆発的噴火で放出された灰色や茶色の軽石,そして直後に火口に蓄積した溶岩は,組成差の有る2種のマグマが噴火直前に混合し出来たものです.2種のマグマは,噴火直前まで別々の深度に存在しました.深部にあった相対的に高温のマグマ(1030 °C,SiO2量55 wt.%)は, 10kmあるいは,さらに深いところから,5kmの深さの浅部マグマ(870 °C,SiO2量62-63 wt.%)に向けて上昇してきました.2種のマグマは大凡1対1の比率で混合しました(混合物は960–980 °C,SiO2量57–58 wt.%).低温マグマの極一部は,高温マグマと混合せずに,白色の軽石を生み出しました. 高温マグマの上昇していた深さは,上昇時に成長していた斑晶に取り込まれたマグマのメルト部分,”メルト包有物”,を分析することで決定することが出来ました.包有物は元のメルトの揮発性成分量を保持しています.ある深度でメルトに溶解することの出来る揮発性成分の量が分かっており,かつ,メルトが揮発性成分に飽和していたとみなせるならば,揮発性成分量から取り込みの深度が推定できるということです.加えて高温マグマの上昇が比較的短時間で起きたことは,高温マグマで晶出していた斑晶(カンラン石+斜長石)が,空隙の多い骸晶状であることから示唆されました.一方,低温マグマの貯蔵深度は,地下でのマグマ溜まりの状態を人工的に再現する”高温高圧実験”を実施し決定しました.白色軽石の粉砕物に噴火時に抜けてしまった水を加え,温度は既知の値(870 °C)に固定し,圧力のみを変化させた複数の実験を行いました.軽石の斑晶組み合わせ(複輝石+斜長石+Fe-Ti酸化物)や量を再現できる条件が,マグマ溜まりの実際の状態とみなされました. 測地学的研究によれば,噴火前のマグマ蓄積に伴う膨張・噴火時のマグマ噴出による収縮の圧力変動源は,共に新燃岳の北西7-8kmの地下に求められています.岩石学的に推定されたマグマ溜まりも,この北西地下にあると考えられます.複数の研究グループの成果によると,圧力変動源深度は6-10kmにあります.この深さが,低温マグマ溜まりよりも深いということは,噴火前には10〜5kmで高温マグマの蓄積が進み,また,噴火時に高温マグマが急激に浅所へ移動•噴出したことを意味することになるのでしょう. 混合する直前のマグマの斑晶量は,高温マグマの9vol.%に対し,低温マグマでは43vol.%でした.後者のような斑晶に富むマッシュ状(お粥状)マグマは,10の6乗Pa•sという高い粘性であったと見積もられ,これは固体に近い状態といえます.したがってマッシュ状マグマの噴出には,高温マグマとの混合により粘性が低下し,再流動化することが不可欠であったとみられます.再流動化に至るまで,段階的に高温マグマの注入が繰り返された可能性があり,これについては今後の研究が待たれます.磁鉄鉱斑晶に主眼を置いた本論文の予察的解析によれば,噴火直前の高温マグマ注入が最も大規模であり,それは地表への噴出の0.7–15.2 時間前に起きていたと定量化されました. 噴出物の岩石学的解析と,地殻変動の圧力変動源の位置から推定された,新燃岳2011年噴火のマグマ供給系.Ref. 1~3の矢印は,異なる研究グループ各々が推定した,噴火前並びに噴火時の圧力変動源の深度範囲.斑晶鉱物略称は,次のとうり.cpx, 単斜輝石;opx, 斜方輝石;pl, 斜長石;mt, 磁鉄鉱;ilm, イルメナイト;ol, カンラン石;low-An and high-An, 斜長石のAn成分に乏しい&富む.*は混合直前の値(高温マグマ).高温マグマについては,浅所に移動していく際の,カンラン石と斜長石の晶出順序にも制約を置きました.