亀 伸樹・藤田 哲史・中谷正生・日下部哲也
Tectonophysics (2012), http://dx.doi.org/10.1016/j.tecto.2012.11.029
修正された速度・状態摩擦則(修正RSF)を用いた地震サイクルシミュレーション
地震は断層の滑り現象ですから、岩石摩擦を理解することは地震研究の根本です。実際、地震の多種多様な局面は、岩石摩擦の性質から説明できるようになりました。岩石実験から見いだされた摩擦のすべり速度と摩擦状態への依存性は、速度・状態依存摩擦則(略称RSF)として方程式の形にまとめられました。RSFは地震発生サイクルシミュレーションに適用され、地震に先行するプレスリップ・地震発生後のアフタースリップ・サイクル中に生じる断層面の強度回復と弱化の見積もりなど、地震発生に関する多くの知見が得られてきました。 しかし、RSFの従来の式は、実験を必ずしも完全に再現できない欠点がありました。本研究は、欠点が全て解決されたNagata et al. (2012)の「修正されたRSF」を用いて地震サイクルシミュレーションを見直しました。バネ・ブロックモデルを用いて周期100年、応力降下量20MPa、すべり量4.5mの地震サイクルを模擬し、従来の欠点のある摩擦則との結果と比較したところ、以下の相違が見つかりました。 ・地震発生に2〜3年先行する強度低下量は従来の摩擦則による予想より大きくなる(図1)。 ・この間のプレスリップ量は二つの摩擦則による違いはなく、ほぼ同じ大きさになる。 ・100年の長期地震サイクルにおける断層強度の回復から低下への転換点は、従来の摩擦則では地震発生数年前であるのに対して、修正摩擦則では地震サイクル前半で早くも生じる。 また、この強度低下量を地震先行現象として観測可能かどうか検討したところ、1〜100Hzの周波数帯域で強度変化に比例する透過波の振幅が期待できることがわかりました。
図1地震サイクルシミュレーションの結果の比較。地震発生時刻をt=0として、前後の計3年間の滑り速度・応力・強度の変化を示す。滑り速度(黒線)と応力(緑線)は、ほぼ同じであるのに対して、強度低下量は76MPaと非常に大きくなる。