地震波形の全体・局所領域に対する複数の深層学習モデルを統合した地震検出手法

徳田智磯1、長尾大道1,2
1東京大学地震研究所、2東京大学大学院情報理工学系研究科

Seismic-phase detection using multiple deep learning models for global and local representations of waveforms Geophysical Journal International, Volume 235, Issue 2, November 2023, Pages 1163–1182, https://doi.org/10.1093/gji/ggad270

 
 今日、地震検出は地面の動きを測定する地震計に基づいて行われています。地表面は人間活動を含む様々な要因によって常に揺れ動いていますので、地震を検出するためには測定された揺れの中から地震波特有の揺れを識別する必要があります。従来の識別方法は揺れ幅の急激な時間変化を評価し、閾値を超えた場合に地震波と判定していました。近年、AI技術の発展に伴い、深層学習モデルに基づく地震検出AIの開発・研究がおこなわれてきました。これまで蓄積された地震波データをAIに学習させ、従来手法では見落とされていた地震波の特徴を捉え、より精度よく地震を検出することが可能になりました。
 本研究ではこうしたAI技術のさらなる向上のため、新しい深層学習モデルを開発しました。具体的には畳み込みニューラルネットワークと呼ばれる深層学習モデルを用いたGPD(Generalized Phase Detection)法を発展させ、地震波形全体だけでなく、地震波形の局所的な情報も取り入れたモデルに改良しました(図1)。このアイデアの基本は私たちの生活の中でも経験することです。例えば、蝶/蛾、梅の木/桃の木の識別は、遠方から全体だけを見ていると見誤ることがありますが、羽や花(局所情報)を注視すれば正確な識別ができます。それと同様に、改良したモデルでは全体波形、及び局所波形、それぞれについて地震検出モデルを作成し、各モデルによる判別結果を統合したものを最終結果としました。このように波形の局所情報を明瞭な形でモデルに取り入れる(つまり注視する)ことにより、誤判定しがちな波形をより精度よく判定できるようになりました(図2)。連続波形データに応用した場合も、誤検出が少なくなることがわかりました(図3)。本研究の成果として、検出精度の向上だけでなく、全体波形、及び局所波形それぞれについてモデルを作成するという検出モデルの新たな枠組みを提案したことも重要です。これによりモデル作成についてのレパートリーが増え、地震を検出する対象地域に合った柔軟な検出モデル作成に貢献することが期待されます。

図1: 開発した深層学習モデルのアーキテクチャ。南北、東西、上下3成分の4秒波形全体を用いた全体モデル、及び前半2秒、後半2秒波形を用いた局所モデルを作成し、各モデルの検出確率の積を最終検出確率と定義した。
図2: GPD法では地震波形と誤検出する一方、提案手法では正しくノイズと判定できた波形例。横軸は時間、縦軸は規格化(最大振幅は1)された振幅を表す。上下方向成分の波形(100 Hz)を表示した。
図3: 群発地震(2016 Bombay Beach swarm)の検出例。上段:南北、東西、上下成分を重ね合わせた波形データ(100 Hz)。中段:GPD法による検出確率(0.1秒ごとに表示, 赤:P-波、青:S-波)。下段:提案手法による検出確率。