マグニチュード9クラスの2011年東北地震や2004年スマトラ地震に先行した10年スケールのb値低下

 楠城一嘉(現所属:防災科学技術研究所)・平田直・小原一成・笠原敬司

GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, doi:10.1029/2012GL052997

マグニチュード9クラスの2011年東北地震や2004年スマトラ地震に先行した10年スケールのb値低下

地震活動の特徴を表す法則として、小さい地震ほど発生数が多く、大きな地震ほど少ない、という関係が良く知られています。これをグーテンベルグ・リヒターの法則と言い、横軸にマグニチュード、縦軸に地震累積数の対数をとると、ほぼ一直線で近似できます。この傾きのことをb値と呼び、通常は1に近い値を取りますが、これまで岩石実験などでは、大きな破壊の前にb値が変化するという研究結果がしばしば報告されていました。

そこで本論文では、マグニチュード9を超える超巨大地震、具体的には2011年の東北沖地震と2004年のスマトラ地震について、長期間におけるb値変化を調査したところ、地震発生の10年以上前から、震源域周辺でb値が低下するという現象がともに検出されたのです。このような超巨大地震発生前にb値が低下したことが確認されたのは、世界で初めてです。とくに、2011年東北地震についてはb値低下が非常に明瞭であり、その理由としては、1995年の阪神淡路大震災を契機として国が整備した高感度地震観測網によって、地震検知能力や震源決定精度が向上したことが挙げられるでしょう。b値が低下した原因は、詳しくはまだ解明されていませんが、超巨大地震の発生に向かって応力が徐々に集中してきたことが考えられます。東北沖地震やスマトラ地震では、マグニチュード9クラスの本震発生後にb値は回復したことから、応力のほとんどが解放されたと解釈されますが、北海道の太平洋沖では、2003年の十勝沖地震以降もb値の減少が継続しており、今後、超巨大地震発生の可能性があることを示しているのかもしれません。

図1 (A)2011年東北地震と(B)2004年スマトラ地震では、地震発生時期へ近づくに従ってb値は減少し、地震発生後にb値は回復したことが分かる。(C)2003年十勝沖地震の発生以降もb値の減少が継続していることが分かる。(D)2011年東北地震の震源域付近、および北海道太平洋沖では、b値が低いことが分かる。

図2 (A) b値が低い地域と2011年東北地震のすべり量が大きい地域に相関があることが分かる。(B)震源域付近の低b値の領域(図Aの四角の領域)では、b値が時間とともに低下したことが明瞭に見える。