地震学的手法による活火山直下のマグマ溜まりイメージング ――浅間山のマグマ溜まりを発見――

長岡優(現・気象庁)・西田究・青木陽介・武尾実・大湊隆雄

Earth and Planetary Science Letters, v. 333-334, p. 1-8, 2012.doi:10.1016/j.epsl.2012.03.034

地震学的手法による活火山直下のマグマ溜まりイメージング

――浅間山のマグマ溜まりを発見――

 浅 間山は日本で最も活動的な火山のひとつであり,世界でも最も充実した観測が行われている火山です.2004年・2008年・2009年噴火にともなう地震 活動や地殻変動から,山頂西側約5-8kmの海面下1km付近に西北西―東南東走行の岩脈(ダイク)が貫入し,その後山頂直下まで水平に移動した後に垂直 に移動して山頂に至るというマグマの経路が描き出されました.しかし,その深部の構造は明らかになっていませんでした.そこで,我々は2005年から 2007年まで行われた臨時地震観測の雑微動記録を用いて,より深部の地震学的構造を明らかにすることを試みました.

得られた速度構造は, 山頂西側約8kmの海面下5-10kmにかけて顕著なS波低速度領域が存在することを示唆しています.その低速度領域は直径5km程度の小さなものです が,これは解析上のゴーストではなく,実際に存在するものであると確認できました.2009年2月の噴火と同期した傾斜変動がこの低速度領域の直上のダイ クの収縮によるものであること,過去の火山活動にともなうダイク貫入が低速度領域の直上付近にあることから,発見された低速度領域はマグマだまりを表して いるものと考えられます.本研究は,地震学的に新しい手法で,上部地殻のマグマだまりの位置および大きさを明らかにした研究として位置づけられます.


海面および海面下5kmにおけるS波速度分布と,A-BおよびC-Dの断面でのS波速度分布.左下のパネルの赤三角形で示される山頂の西側に顕著な低速度領域があることがわかる.


浅間山におけるマグマ供給経路。山頂西側浅部にダイクが,その直下に地震波の低速度層として見えるマグマだまりがあると考えられる.