津波波形からみた2011年東北地方太平洋沖地震のすべりの時空間分布

佐竹健治(東大地震研)・藤井雄士郎(建築研)・原田智也(東大地震研)・

行谷佑一(産総研)

Bulletin of Seismological Society of America,103,No2B 1473-1492(2013)

津波波形からみた2011年東北地方太平洋沖地震のすべりの時空間分布

東日本大震災を引き起こした2011年東北地方太平沖地震については,地震波・GPS・津波などのデータを使って断層面上のすべり分布のモデルが提案されてきました.これらに共通するのは,宮城県沖の震央付近で数十m以上という大きなすべりが発生したことですが,いくつか未解決の問題もありました.なかでも,津波の高さが震央から約100 kmも北の岩手県宮古市付近で最大となったことは,これまでのモデルでは説明されていませんでした.

2011年の津波波形は,東大地震研究所のケーブル式海底水圧計やGPS波浪計によって,波源域周辺の沖合や深海で記録されました.従来に比べて高品質・高分解能の津波波形が得られたことから,津波の源となったすべり分布の空間分布に加えて,時間変化も推定することができました.

その結果,地震(破壊)発生後約2.5分後にプレート境界のやや深部で25 m以上の大きなすべりが,さらに地震発生から約3分後に海溝軸付近で巨大なすべり(最大69 m)が発生したことがわかりました.この巨大なすべりは,地震発生から約4分後以降に北へ広がり,海溝沿いで20 m以上のすべりが発生しました.海溝軸付近ですべりが遅れて発生したことが,震央付近の宮城県でなく,岩手県沿岸で津波の高さが最大になった原因でした.

海溝軸付近の大きなすべりは,1896年明治三陸津波地震のモデルとよく似ていますが, 2011年の方がすべり量や断層長さはずっと大きいものでした.しかし,仙台平野への津波の浸水は,このような海溝軸付近のすべりでは再現できず,プレート境界深部のすべりが主な原因であることが確認されました.これは 869年貞観地震のモデルとしてすでに提出されていたものと同様に,プレート境界深部がすべることにより長波長の地殻変動を生じ,沿岸での津波が長周期となって浸水しやすくなったためです.

図1 小断層上におけるすべり量の時空間分布(時間間隔は30秒毎です).白星印は震源(破壊の開始点)を示します.

 

図2 2011年東北地方太平洋沖地震震源域の断面図.下は断層面を,上は鉛直改訂変位分布を示します.2011年東北地方太平洋沖地震は,プレート境界深部で発生した869年貞観地震タイプ(緑色)と,海溝軸付近で発生した1896年三陸津波地震タイプ(青色)の同時発生でした.