2014年チリ・イキケ地震(M8.1)とその最大余震(M7.6)の発生過程に非地震性ゆっくりすべりが及ぼした影響

伊東優治(1, 2)、Socquet Anne(2)、Radiguet Mathilde(2)
1.東京大学地震研究所 2.グルノーブルアルプ大学地球科学研究所

Largest aftershock nucleation driven by afterslip during the 2014 Iquique sequence
Yuji Itoh (1, 2), Anne Socquet (2), Mathilde Radiguet (2)
1.Earthquake Research Institute, The University of Tokyo 2.Univ. Grenoble Alpes, Univ. Savoie Mont Blanc, CNRS, IRD, Univ. Gustave Eiffel, ISTerre, Grenoble, France

Geophysical Research Letters (2023) 50, e2023GL104852. https://doi.org/10.1029/2023GL104852

 
南米チリの沖合には、沈み込む海洋プレート(ナスカプレート)と陸側のプレート(南アメリカプレート)の境界であるペルー・チリ海溝があり、チリ周辺では数十年間隔でM8以上の巨大地震が発生しています。チリ北部で発生した2014年イキケ地震(M 8.1)もこの海溝で発生したプレート境界型地震の一つです(図1a)。この地震の特徴の1つとして、本震発生から約27時間後に最大余震(M 7.6)が本震を起こした断層のすぐ南側(震央距離約130 km)の領域で発生したことが挙げられます(図1a)。本震と最大余震によるすべり領域と発生時刻が近接していることや、27時間の遅れがM 7.6のような大規模な地震を起こすのに必要と想定される準備期間と比べると遥かに短いことから、一見すると、両者を起こした断層が本震発生時に一挙に一つの地震としてすべることも可能であったように思えます。しかし、実際にそうならなかった理由は未解明でした。地震のシミュレーションや岩石試料を用いた室内実験、過去の地震学的及び測地学的観測データから、地震波を放射しないゆっくりとした断層すべり(非地震性すべり)が、地震の準備過程、地震発生時の断層すべりの伝播過程と停止、更には余震の発生過程にも影響を与えることが知られています。このことから、イキケ地震の本震と最大余震の間の27時間の断層すべり過程を調べることで、非地震性すべりが2つの地震の発生過程に与えた影響を明らかにすることを着想しました。
 最初に、GPSによって観測された地殻変動の時系列データを解析し、イキケ地震の本震と最大余震のすべり、及びその間27時間の断層すべりの分布を推定しました。その結果、本震-最大余震間に、本震のすべり域の南側で非地震性の余効すべりが発生していたことが見つかりました(図1a, 1e-f)。大地震を起こす領域のプレート境界断層は、大地震の発生時以外はすべらず止まっていることが多い一方、過去の研究からは、この本震のすべり域の南側の余効すべり領域が本震発生前やそれ以前にもゆっくりとすべり続けていたことがわかっています(図1a-b)。そのため、この領域は非地震性すべりが起きやすい領域であると考えることができます。断層に働く摩擦則を用いたシミュレーションから、非地震性すべりを起こしやすい領域には、その付近で発生した地震に伴う高速すべりが入り込めないことが知られています。つまり、非地震性の余効すべりが発生した本震の南側の領域が、最大余震発生領域まで一挙に本震時にすべることを阻止したと考えられます。
 一方で、興味深いことに、この本震-最大余震間の非地震性の余効すべり域に最大余震の震源が位置し、非地震性すべり域と考えていた領域が、最大余震発生時に地震性すべりで高速にすべったこともわかりました(図1a)。この地震性すべりと非地震性すべりが重なっている理由を明らかにするべく、本震-最大余震間に発生した中小規模の余震のパターンを見てみたところ、この本震-最大余震間の非地震性すべり域では大地震直後に典型的にみられる余震発生個数と規模の急速な減衰は見られませんでした(図1c)。むしろ、中小規模の余震の中で相対的に大きな余震は間欠的に発生しており(図1d)、最大余震発生の45分前にはM 6.6の地震が最大余震の震源のほど近くで発生していました(図1a, 1g)。このような地震活動の特性は地震発生の準備過程である核形成過程に類似しており、このことから、本震-最大余震間に発生した非地震性の余効すべりが最大余震の準備過程を駆動したと考えられます。また、非地震性の余効すべり域と最大余震の地震性すべり域の空間的な重なりに関しては、測地観測では検出できない多数の小さな地震性すべり断層が余効すべり域の内部に存在し、それらが同時にすべることで最大余震を生じたと考えることで説明できます。本研究の結果は、非地震性すべりを起こす断層と地震性すべりを起こす断層の複雑な相互作用により、現実の複雑な地震活動が生じていることを示唆しています。

図1: (a)チリ北部での地震性すべりと非地震性すべりの分布。赤とピンクの曲線で囲まれた領域で2014年イキケ地震の本震と最大余震に伴う顕著なすべりが発生。赤、ピンク、オレンジの星は、本震、最大余震、最大余震の約45分前のM 6.6の震央(Soto et al., 2019, JGR)。青の曲線で囲まれた領域がこの2つの地震の間で生じた非地震性すべりの領域。黒の曲線で囲まれた領域が本震発生前にゆっくりとすべっていた領域(Socquet et al., 2017, GRL)。(b) 大地震が発生していない時期のプレート間の固着分布(Métois et al., 2016, PAGEOPH)。色が濃い領域ほどプレート境界がすべっていないことを示しています。(c)2つの大地震間に生じた中小規模の余震の累積発生個数の時間変化(McBrearty et al., 2019, BSSA)。水色と緑の曲線は、それぞれ本震と最大余震の発生セグメントでの累積発生個数。(d) 2つの大地震間に生じた中小規模の余震に伴う累積モーメント解放量の時間変化。(e-f) 2つの大地震間の27時間の余効すべりの時間発展を前半と後半に分けて推定したもの。(g)2つの大地震間の中小地震の時空間分布。