南海トラフ沿いの超低周波地震の検知下限マップの作成

武村俊介 1 ・馬場慧 2 ・矢部優 3 ・山下裕亮 4 ・汐見勝彦 5 ・松澤孝紀 5
1 東京大学地震研究所, 2 海洋研究開発機構, 3 産業技術総合研究所, 4 京都大学防
災研究所, 5 防災科学技術研究所
Takemura, S. 1 , Baba, S. 2 , Yabe, S. 3 , Yamashita, Y. 4 , Shiomi, K. 5 , Matsuzawa, T. 5 ,
Detectability analysis of very low frequency earthquakes: Methods and application in
Nankai using F-net and DONET broadband seismometers, Geophysical Journal
International, 2024, 237 (1), 49-63, ggae033, https://doi.org/10.1093/gji/ggae033
1 ERI UTokyo, 2 JAMSTEC, 3 AIST, 4 DPRI Kyoto Univ., 5 NIED

 
 南海トラフなどの沈み込み帯では、プレート境界のすべり/応力蓄積の監視を目的として、通常の地震に加えてスロー地震のモニタリングが広く実施されている。スロー地震の信号は通常の地震と比べて(継続時間が長いために)微弱であり、それらの活動度を議論する上で観測網の検知能力を正しく把握しておく必要がある。そこで、防災科学技術研究所が管理運用する陸域広帯域地震計F-netと海底地震計DONETに含まれる地震計ノイズの強さとシミュレーション波形を用いて、南海トラフ沿いで発生する超低周波地震(スロー地震の一種)の検知下限を評価した。超低周波地震の観測波形ではなくシミュレーション波形を用いることで、超低周波地震が観測されていない地域を含め、検知下限を理論的に評価することが可能である。
 図1aに示すのが、F-netによる南海トラフ沿いの超低周波地震の検知下限の空間変化である。赤系統ほど検知下限が低く、小さな超低周波地震まで検出可能なことを表している。深さ30-40 kmのプレート境界深部で発生する超低周波地震は、紀伊半島南部などの観測点の密な地域では1012 Nm/s程度(継続時間20秒を仮定すると、モーメントマグニチュードで2.8程度)の超低周波地震まで検知可能である。F-netは2004年以降の波形記録を有しており、長期間の超低周波地震活動評価に有利であるが、トラフ軸(図中灰色破線)付近のプレート境界浅部(10 km以浅)で発生する超低周波地震の観測には十分とは言い難い。2011年以降に敷設された海底地震計DONETを追加することで、室戸岬(四国東部)沖から紀伊半島南東沖にかけて検知性能が大きく向上する(図1b)。
 本研究で作成した超低周波地震の検知下限マップとスロー地震データベース(http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/)の超低周波地震カタログを比較することで、南海トラフ沿いのスロー地震活動の理解の深化につながる。また、検知下限の低い地域への新たな観測計画の立案につながると考えている。
https://doi.org/10.5281/zenodo.7272617に本研究で得られた、南海トラフ沿いにおける超低周波地震の検知下限の数値データが公開されている。

図1. 南海トラフ沿いの超低周波地震の検知下限マップ。(a)陸域の広帯域地震計ネットワークF-netのみの場合、(b)F-netに加えて海底地震計ネットワークDONETを加えた場合。三角がF-net、ひし形がDONETの観測点地位を示す。図中の等深線はフィリピン海プレート上面の深さを示す。