小野寺圭祐 (東京大学地震研究所)
Keisuke Onodera (ERI, UTokyo)
Onodera (2024), New views of lunar seismicity brought by analysis of newly discovered moonquakes in Apollo short-period seismic data, Journal of Geophysical Research: Planets, 129, e2023JE008153, https://doi.org/10.1029/2023JE008153
今から半世紀ほど前, アポロ計画で月面に地震計が設置されたことにより, 月でも地震(月震)が起こっていることが判明した。現在に至るまでに約13,000もの月震イベントが確認されており, 月の地震活動度や内部構造の理解に貢献してきた。
アポロの観測では, 0.2〜1.5Hzの周波数帯に感度をもつ長周期計と1.5〜10Hz帯に感度をもつ短周期計の二種類の地震計が月面に設置されたものの, 短周期計は図1aに示すように多くの機器ノイズが含まれており, 現在に至るまでその大部分が未解析のままであった。本研究では, 1971〜1977年に取得されたアポロ14, 15, 16号の短周期計データのクリーニング処理を行い, イベントの自動検出を行った。その結果, 22,000を超える新たな月震を検出することに成功した。
特に重要な発見として, 過去には28例しか見つかっていなかった浅発月震を新たに46例検出した点である(図1b-c)。浅発月震は, 断層由来の月震であることが過去の研究で指摘されており, 地球の地震に最も類似したイベントだと言われている。しかし, 検出数の少なさからその詳細は謎に包まれたままであった。
今回の発見により, 今まで考えられていたよりも断層由来の月震が多く発生していることがわかった。また, 図2に示すように浅発月震はアポロ15号(北半球側)の短周期計で多く観測されており, 浅発月震の発生には空間的な偏りがあることを初めて示した。これは月には地震が起こりやすい所とそうでない所があることを示唆しており, 過去50年の月の地震活動の描像を刷新する成果と言える。本研究ではさらに 浅発月震の時空間分布や他の観測データ(表面の地形や重力異常マップ等)との関連性について調査を進め, 約30億年前に月地殻内へのマグマ貫入に伴い発達した断層が浅発月震の発生に寄与している可能性を提案した。月は現在でも冷却過程にあり, 全球収縮により月地殻内に蓄積した歪みを解放するプロセスとして地殻内で断層ずれが生じ, 浅発月震が発生していると考えられる。今後, 更なる解析・地球の地震との比較を通じて, より詳細な発生プロセスを明らかにしていきたい。

