2024年能登半島地震は流体を豊富に含む断層でのゆっくりすべりから始まった

Slow rupture in a fluid-rich fault zone initiated the 2024 Mw 7.5 Noto earthquake
Ma, Z.1, Zeng, H.1, Luo, H.2,1, Liu, Z.3, Jiang, Y.1, Aoki, Y. (青木陽介)4, Wang, W.3, Itoh, Y. (伊東優治)4,5, Lyu, M.1, Cui, Y.6, Yun, S.-H.1, Hill, E. M. 1, Wei, S. 1,7 (2024). Slow rupture in a fluid-rich fault zone initiated the 2024 Mw 7.5 Noto earthquake, Science, doi:10.1126/science.ado5143
1南洋理工大学(シンガポール) 2南方科技大学(中国) 3中国国家地震局
4東京大学地震研究所 5グルノーブル・アルプ大学(フランス) 6河海大学(中国)
7中国科学院

 
 能登半島では2020年ごろから群発地震が継続していたが,2024年1月1日にマグニチュード7.5の能登半島地震が発生し,大きな被害をもたらした.この地震によって生じた地表変形及び地震波の観測データを用いて、地震の発生機構の解明を試みた.能登半島地震の震源は2020年から続いていた群発地震の発生域にあたり,地下には流体が多く含まれているとされる.断層すべりを模した室内実験の結果等に基づき,流体の存在が高速の破壊伝搬を妨げることが指摘されていることから,2024年能登半島地震に伴う断層破壊は,その開始直後は流体の存在により高速で伝搬することができなかったものの,20秒程度経って流体の多い領域を抜けたことにより高速に伝搬することができるようになったと解釈した.このような、断層破壊の高速伝搬が能登半島地震の被害を大きくしたと考えている.

 図1は地震前後に撮像された様々な合成開口レーダー画像を用いて求められた3次元の地震時変位である.変位は能登半島北部に集中していることがわかる.能登半島北西部では最大約2.2 mの水平変位と最大約5 mの隆起が観測された.図1に星印で示されている震央付近でも2 mを越える水平変位と約2 mの隆起が観測された.
 図2A, Bに,観測された地表変形を説明できる断層すべりの空間分布を示す.断層滑りは能登半島北西部で最大10 mに達し,震央付近でも約7—8 mのすべりが発生したと推測される.次に,能登半島地震によって発生した遠地(北米およびオーストラリア)で観測された地震波動場を逆伝搬解析することにより,断層運動の時間発展を明らかにした.図1A, Bに大きなエネルギーが発生した場所を正方形および菱形の図形で表し,その発生時刻を示す色とで表現した.図1Cは大きなエネルギーが発生した場所を地震発生からの時間を横軸に,断層沿いの距離を縦軸に表示したものである.これによると,最初の20秒ほどは断層破壊の進展が遅かったがその後北東方向(図1Cの上方向)および南西方向(図1Cの下方向)に3 km/sという,一般的な地震の破壊伝搬速度と同じくらいの速度で伝搬したことがわかる.図2Dは地震波形の逆解析によりこれを地震発生から10, 20, 30, 40秒後までの断層すべり量のスナップショットとして推定したものである.
 より詳細な破壊開始メカニズムの理解には,最初の20秒程度のゆっくりとした断層破壊の過程を本研究の結果よりも詳細かつ網羅的に理解することが必要である.そのような詳細な解析は,能登半島沖地震の発生要因を理解するだけでなく,地震発生メカニズム一般の理解を進めるにあたり重要なことである.

図1:合成開口レーダーにより計測された能登半島地震にともなう3次元変位.水平変位はベクトルで,鉛直変位は色で示している.大きな変位は能登半島北部に集中し,最大約2.2 mの水平変位と約5 mの隆起が観測された.
図2:A. 合成開口レーダーにより観測された地表変形を説明する断層すべりの空間分布および地震波動場の逆伝搬解析により求められた大きなエネルギーが発生した場所(菱形および正方形).菱形や正方形の色は大きなエネルギーが発生した時刻を示している.B. A.を能登半島北端部について拡大したもの.C. 大きなエネルギーが発生した場所を断層沿いの距離(縦軸)に投影したもの.横軸は地震発生からの時間を示す.D. 地震波の逆解析により推定した地震発生から10, 20, 30, 40秒後までの断層すべり量の時間発展.