臼井嘉哉1、上嶋誠1、長谷英彰2、市原寛3、相澤広記4、小山崇夫1、ほか10名 Usui, Y.1, Uyeshima, M.1, Hase, H.2, Ichihara, H.3, Aizawa, K.4, Koyama, T.1, et al. (2024).
Three-dimensional electrical resistivity structure beneath a strain concentration area in the back-arc side of the northeastern Japan arc.
Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 129, e2023JB028522. https://doi.org/10.1029/2023JB028522
1東京大学地震研究所、2地熱技術開発株式会社、3名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山研究センター、4九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター
東日本の日本海側では、平成16年の新潟県中越地震、平成19年の能登半島地震、新潟県中越沖地震等、令和6年の能登半島地震など大きな被害地震が発生しており、その多くはひずみ集中帯と呼ばれる領域で発生しています。図1aに東日本の日本海東遠部周辺のひずみ集中帯を示します。マグニチュード7以上の被害地震の震央も併せて示しており、その多くはひずみ集中帯で発生していることがわかります。測地学的研究により、日本海東遠ひずみ集中帯の南端部は上部地殻が低剛性であるのに対し、奥羽脊梁山脈ひずみ集中帯は下部地殻が低粘性であり、ひずみ集中のメカニズムが異なる可能性が指摘されていました。しかし、ひずみ集中のメカニズムが何故異なるかについてはその後研究が進んでおりませんでした。
本研究では、ひずみ集中帯の成因や大きな内陸地震の発生のメカニズムについて理解を深化させるため、図1bに示す、複数のひずみ集中帯が隣接する領域で地下の電気比抵抗構造を推定しました。電気比抵抗は流体(水や溶けた岩石)の存在に敏感であり、流体が多く含まれる岩石は一般的に力学的に弱くなるため、ひずみ集中に関係する構造を明らかにする上で最も有効な物理量の1つです。
図1cに、推定した電気比抵抗構造のうち、図1bの測線ABに添う鉛直断面を示します。庄内平野、新庄盆地に相当する浅部領域と奥羽脊梁山脈下の20km以深が顕著に低い比抵抗を示します。このうち前者は測地学的研究により上部地殻が低剛性であると推定された領域に対応します。このことは日本海東遠ひずみ集中帯の南端部は浅部の堆積層が低剛性体として振る舞うことによりひずみが集中していることを示唆します。一方、奥羽脊梁山脈下深部の顕著な低比抵抗域は測地学的研究により低粘性であると推定された領域に対応します。この深部低比抵抗域は高温かつ流体を多く含むことにより、低粘性体として振る舞い、その結果としてひずみ集中が起きていると考えられます。
日本海東遠ひずみ集中帯と奥羽脊梁山脈ひずみ集中帯の間に存在する地質学的なひずみ集中帯は堆積盆地にあたる浅部が低比抵抗域であり、かつ、20km以深も比較的低い比抵抗を示します。日本海東遠ひずみ集中帯には日本海拡大時にできた断層が多数存在します(図1b)。浅部・深部の低比抵抗域が力学的な弱体として振る舞うことで断層への応力集中が起こり、その結果として内陸地震が発生することにより、地質学的な時間スケールでひずみ集中が起きている可能性があります。
また、本研究対象領域ではマグニチュード5以上の地震の震央が中部地殻~下部地殻の比抵抗が比較的低い領域の縁に位置する傾向が認められ、地下の流体が大きな内陸地震の発生に寄与している可能性を示しました。さらに、鳥海山、月山の東側に低比抵抗域が存在することを明らかにしました。火山活動に関係する、流体に富む領域を示している可能性があります。