堀内拓朗・市原美恵・西田究・金子隆之(東京大学地震研究所)
Horiuchi, T., Ichihara. M., Nishida, K., Kaneko, T. (ERI, UTokyo).
A seismic precursor 15 min before the giant eruption of Hunga Tonga-Hunga
Ha’apai volcano on 15 January 2022.
Geophysical Research Letters, 51, e2024GL111144, 2024
https://doi.org/10.1029/2024GL111144
https://news.agu.org/press-release/new-trigger-tonga-eruption/
トンガ王国の北北東およそ70 kmに位置する海底火山・Hunga Tonga-Hunga Ha’apai (HTHH) 火山は2022年1月15日にカルデラ形成噴火を起こした。噴火による変動は世界中で観測され、人工衛星からも捉えられた。多くの研究者がデータを解析し、この噴火の開始は1月15日04:00UTC直後だったと報告した。しかしいくつかの論文や報告書では、噴火の始まる15分ほど前に未確認の波の存在に言及している。本研究は以下のような疑問の解決を目指した。(1)未確認の波は本当に存在したのか (2)それらの波はこの噴火に関係しているのか (3)どのようにこの噴火は始まったのか (4)我々は離島の火山や海底火山の監視体制をどのように向上していくことができるだろうか。これらの問いに答え、海底火山噴火の理解を進めることは、類似した火山を多く抱える日本にとって将来の大規模噴火にどのように備えるべきかという点でも非常に重要である。
本研究では、火山に最も近い(それでも火山からは750 km以上離れている)地震観測点2点のデータを解析した。火山噴火のように地球の表面近くで鉛直方向に物が動くような現象は、Rayleigh波と呼ばれる地球表面を伝わる地震波を発生させることが知られており、低い周波数成分は震源から遠く離れた場所でも観測されることがある。そこで、海洋や気象起源のノイズより低い周波数(0.1 Hz以下)に注目し、Rayleigh波の伝播に伴う地面の動きを抽出するような解析を行った。その結果、03:47UTC頃に、Rayleigh波成分が卓越した波動が観測されていたことを発見した(Fig.1(c)(d))。各観測点から波の到来方向を推定した結果、波源はHTHH火山の位置にあることが確認され(Fig.2(a)(b)(c))、観測点までの伝播時間を考えると、その発生は、噴火開始の約15分前(03:45UTC頃)となる。このイベントは噴煙などの表面現象を伴うものではなかったが、前日から続いていた火山噴火活動に伴う地震活動よりもはるかに大きく、今回の巨大な噴火のトリガーとなったものかもしれない。
この噴火で発生した波動についてはすでに多くの論文が発表されているが、その前駆過程に注目した研究はこれまで行われていない。また、火山近傍の地震観測点を用いて噴火の前駆過程や推移を捉える手法を、火山から750 km以上離れた観測点データの解析に適用し、前駆的現象を発見することができた点は、私たちの研究の重要なポイントである。このような前駆現象が常に発生するとは限らないが、次に類似するイベントが発生した際には同じ手法で捉えることは可能であり、火山近傍に観測点が無い状況でも有用であると考えている。