SegPhase:階層型ビジョントランスフォーマーを用いた日本における地震観測網向け到達時刻ピッキングモデルの開発

加藤慎也, 飯尾能久, 長尾大道, 片尾浩, 澤田麻沙代, 冨阪和秀
SegPhase: development of arrival time picking models for Japan’s seismic network using the hierarchical vision transformer
Earth Planets Space 77, 118, doi: 10.1186/s40623-025-02249-y, 2025

 
 地震発生時に最初に到達するP波や、続いて到達するS波の到達時刻を正確に読み取ることは、震源の特定や地震活動の理解において重要です。これまでは人間が目視で波形を確認して読み取る方法が主流でしたが、観測網の高密度化とデータ量の増加に伴い、自動読取り技術の重要性が高まっています。

 
 近年、深層学習に基づく自動読取り手法が急速に発展しており、従来の統計的手法よりも高い検出性能を示すことが報告されています。本研究では、より高精度な到達時刻の検出を目指して、新たなモデル「SegPhase」を開発しました。

 
 SegPhaseは、地震波形データに対して、P波やS波の初動のような局所的な特徴と、ノイズや初動後に続くコーダ波のような大局的な特徴の両方を同時に捉えることができるモデルです。従来広く用いられてきたConvolutional Layerは、波形のごく限られた時間範囲における特徴抽出には優れていましたが、時間的に離れた情報を関連付けることは困難でした。これに対してSegPhaseは、局所的な特徴に加え、大局的な特徴を抽出・統合的に処理できる構造を持ち、両者を関連付けながら学習を行うことで、P波やS波の到達時刻をより精度高く検出できるようになりました。さらにSegPhaseは、学習を通じて波形中の重要な時間領域を自動的に特定し、その注目度を「Attention map」として可視化できる、説明可能性の高いモデルでもあります。本モデルの大きな特徴は、P波やS波のような明瞭な信号だけでなく、コーダ波やノイズといった曖昧な信号にも柔軟に注目できる点にあります。図1(a)は、SegPhase内部の異なる層(Layer)や注意の向け方(Head)ごとに、モデルがどの時間帯の波形に注目しているかを示しており、SegPhaseが波形全体から多様な特徴を抽出していることが視覚的に確認できます。また図1(b)は、それら複数の情報を統合し、SegPhaseが最終的にどの時間領域を重視して判断しているかを示したものです。ここでは特にP波やS波の初動付近に強い注目が集まっており、SegPhaseが重要な信号を的確に捉えていることがわかります。これらの可視化結果は、SegPhaseが局所的かつ大局的な情報をバランスよく活用することで、到達時刻の検出精度を高めていることを裏付けています。

 
 さらに、SegPhaseは従来の代表的な深層学習モデルと比較して、P波およびS波の到達時刻の検出精度の両面で優れた性能を示しました。これらの結果は、SegPhaseが単なる精度向上にとどまらず、地震波形の理解に新しい枠組みをもたらす可能性を示しており、今後の高精度地震検出技術の発展に大きく寄与することが期待されます。

図1 SegPhaseによる地震波形の注目領域の可視化。
この図は、地震波形の中でAIが「どこを重要だと判断しているか」を色で示したものです。赤い部分ほど、AIが注目している(=重要だと判断している)ことを表しています。上部(a)のパネルでは、AIモデルの中の「異なる層(Layer)」や「注意する視点(Head)」ごとに、どの時間帯に注目しているかを示しています。下部(b)の図は、それらすべての注目情報をまとめた「全体としてAIがどこを注目したか」を示しています。色の濃さ(黄色~赤)は、「注目の強さ」を表しています。赤い部分は、AIが特に強く注目している時間帯です。