前野 深(火山噴火予知研究センター)
Maeno, F., 2025, Global database on surface phenomena and hazards of explosive submarine eruptions with application to hazards of the Kolumbo Volcanic Field. Bulletin of Volcanology 87,
https://doi.org/10.1007/s00445-025-01871-8
海域での火山噴火では、マグマ水蒸気爆発、津波、漂流軽石など、陸上での噴火とは異なる多様な現象が引き起こされます。このような現象が発生する要因や条件の解明は、海域における火山噴火の性質や影響を知り、防災・減災を進める上で不可欠と言えます。しかし、噴火が発生する水深、噴火の規模や様式、表面現象がどのように関わり合っているかなど、多くの未知の問題が残されています。例えば、ギリシア・エーゲ海のサントリーニ島沖にあるコロンボ火山域(海底火山群)で発生した西暦1650年の大噴火は、津波や火山ガスが隣のサントリーニ島に被害をもたらしたことが歴史記録によりわかっていますが、噴火に伴った表面現象や噴火プロセス、関連するハザードがどのようなものであったかについては十分に解明されていません。近年、欧州においてこのコロンボ火山域のハザード評価に関するプロジェクトが進められました(文献1)。本研究はこれに関連して、既知の海底噴火に関する世界規模のデータベース(127火山422噴火事例)を構築し、コロンボ火山域のハザード評価のための基礎データを収集するとともに、海底噴火の一般的性質を抽出することを目的として進められました。データベースや近年の事例の検討から得られた重要な知見の一つは、水深が約400 m以浅の噴火では、噴煙(ジェット)が海を貫き大気中に大きく成長する場合があることです。一方、火口が約400 m以深では、海面上の爆発的現象の事例は劇的に減少し、噴火の検出方法は地震・音響信号、漂流軽石、変色水、潜航調査による直接的な観察にほぼ限られるようになります。さらに本研究では、水深とマグマ噴出率をもとに海底噴火を6つのモードに分類することにより、さまざまな噴火とハザードを整理することを試みました(図1)。コロンボ火山域の1650年大噴火については、現在の海底地形や断片的な歴史記録、データベースに基づき、低い強度から高い強度の噴火活動へと移行したと考えられます。本研究で構築したデータベースと分析結果は、海底噴火に伴う危険な表面現象についての理解を深めるとともに、歴史的な噴火事象に対する制約や、その他の地域、例えば日本列島や南太平洋などの海底火山におけるハザード評価にも貢献することが期待されます。

参考文献:
1) Sparks RSJ, Vougioukalakis G, Aspinall WP, Neri A, Antonakos A, Baxter PJ, Bevilacqua A, Cerminara M, de’ Michieli Vitturi M, Francalanci L, Koutroulli A, Maeno F, Mastroianni F, Papazachos K, Pardini F, Paris R, Tadini A, Vaselli O. (2025) Future eruptions of the Kolumbo volcanic field: prognosis with hazard and risk assessment. Bull Volcanol 87, 73. https://doi.org/10.1007/s00445-025-01836-x
