武村俊介1
1東京大学地震研究所
Takemura, S. Characteristics of T-wave generation around submarine volcanoes. Earth Planets Space77, 150 (2025). https://doi.org/10.1186/s40623-025-02284-9
近年、本州南方にあるスミスカルデラや孀婦海山周辺において、検知された地震現象の規模に対して顕著な津波が観測された。それらの地震現象は海底火山活動と関連があることが指摘されている(例えば、Sandanbata et al. 2022解説記事1; Fujiwara et al. 2024)。また、津波に伴ってP波やS波より大きな海中音波(T波)が観測されており、そのことから浅い事象であったために津波が観測されたと考えられている(Takemura et al. 2024解説記事2)。T波は海水中の低速度層(SOFARチャネル)に沿って数千km以上離れた観測点でも観測されることがあり、遠洋の海底火山監視に有用であることが議論されている。そこで、Takemura et al. (2024)解説記事2の研究を更に推し進め、海底火山におけるT波の励起プロセスに迫った。
詳細な海底地形モデル(ETOPO 2022)を含んだ地震波伝播シミュレーションにより、図1に示すように、震源が海底火山の内側か外側かでT波の特徴が異なることを見出した。P波やS波より顕著に大きく、立ち上がりが鋭く、継続時間が60秒以下のT波はスミスカルデラ周辺ではカルデラ内部(図1a)、孀婦海山周辺では孀婦海山や孀婦岩の内部(図1b)で事象が発生した場合にのみ見られることがわかった。紀伊半島沖の海底地震計で観測された実際のT波もP波やS波の5倍以上の振幅を持ち、継続時間が60秒以下であることから、海底火山内部で発生した事象ではないかと推察される。
さらに詳細に調べると、震源近くに対象とする観測点へ向けた急傾斜が存在するとT波が効率よく励起されることがわかった。これまで観測あるいは理論的な研究からDownslope Conversion(傾斜変換:海底面の傾斜で地震波から海中音波へ変換)がT波励起のメカニズムと考えられてきたが、実際の海底火山地形を含んだ地震波伝播シミュレーションによって、観測点へ向けた急傾斜によってT波が効率よく励起されること、海底火山の形状によってT波励起は非等方的となることを明らかにし、海底火山におけるT波励起メカニズムの理解を深化させた。
実際にスミスカルデラの事象では、日本列島で顕著なT波が観測される地域とそうでない地域が見られた。対象の海底火山や地域に対して、先に地震波伝播シミュレーションを実施しておくことで、陸から遠く離れた遠洋の事象監視に向けた基礎検討が実施可能であり、今後も研究を進めたいと考えている。
関連解説
解説記事1 https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/research/17626/
解説記事2 https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/research/22620/

