フンガ・トンガ2022年噴火をスーパーコンピュータで再現する

鈴木雄治郎1, Beatriz Martínez Montesinos2,3, Antonio Costa2

1地震研究所・数理系研究部門, 2INGV(イタリア), 3GEO3BCN-CSIC(スペイン)


Numerical simulations reveal the dynamics of the most intense eruption of Hunga Tonga in January 2022, Bulletin of Volcanology, 87:119, 2025. doi:10.1007/s00445-025-01919-9

 
 フンガ・トンガ―フンガ・ハアパイ火山では、2022年1月15日に激しい爆発的噴火が発生しました。噴煙は海抜約58 kmまで達し、水平方向にも数百 km に及ぶ巨大な傘型の雲を形成しました。また、この噴火に伴う急激な気圧変化によって潮位が変動し、その影響は約8,000 km離れた日本でも観測されました。このかつて例のない規模の噴火がどのように生じたのかを明らかにするため、私たちは三次元数値モデルを用いた大規模シミュレーションをスーパーコンピュータで実行しました。

 海水面近くで発生した今回の噴火は、どれだけ海水が混合したかが噴煙の挙動の鍵になります。そこで、火口で混合する海水量を変えてシミュレーションしました。噴煙における海水量が25%もあると温度が低くなり、すべての噴煙が流れ下り火砕流となりました(図a)。海水量が22%のときは火砕流と噴煙柱の両方が発生するものの、噴煙高度は観測より低くなりました(図b)。海水量が12%の場合に、観測データと非常に似た噴煙となりました(図c)。海水量が0%、すなわち純粋なマグマ噴火では巨大な噴煙を形成するものの、ふたたび火砕流が発生して噴煙高度が観測より低くなりました(図d)。このようにして、噴火に関係した海水量を絞り込むことができました。


上記の4つのシミュレーションの動画は以下のリンクから見ることができます。 https://link.springer.com/article/10.1007/s00445-025-01919-9#Sec13


図:火口で混合する海水量を変えた数値シミュレーション結果。色は噴煙断面での噴出物濃度の分布を表す。

 海水量が12%のシミュレーション結果をさらに詳しく解析したところ、噴煙が時間とともに拡大する様子を再現することに成功しました。噴煙の高さや水平への広がりなど、さまざまな観測データとぴったり一致しました。シミュレーションを使うと、大気中に運ばれるマグマ物質や海水量も直接測定することができます。対流圏・成層圏のさらに上に位置する中間圏へ、約100万トンの火山灰と約10万トンもの海水が送り込まれた可能性が明らかになりました。 孤島火山では現地観測が困難ですが、人工衛星観測と数値シミュレーションを組み合わせることで、こうした大規模噴火の実態解明に大きく近づくことができます。