繰り返しトラップドア断層破壊の顕著な類似性—津波・地震波の広周期帯域波形の比較から—

三反畑修&武村俊介

1.東京大学地震研究所


Sandanbata, O., & Takemura, S. (2025). Full‐spectrum similarity of repeating trapdoor faulting. Geophysical Research Letters, 52(24), e2025GL119615. https://doi.org/10.1029/2025gl119615 

 
 スミスカルデラでは,約10年おきにMw5.4〜5.7の地震が津波を伴って発生してきました.これは,地中のマグマだまりにゆっくりと蓄積して高圧化したマグマの力に耐えきれなくなり,カルデラ内の断層の一部が一気に動くことでカルデラが大きく持ち上がる,トラップドア断層破壊によるものと考えられています(解説記事,研究速報).本研究では,スミスカルデラで発生したこれら地震波と津波の波形を0.2〜500秒という広い周期帯で比較し,地震同士の類似性を調べました.その結果,それらのうち最大規模の3つの地震は,互いに波形が高い精度で一致することを示しました(図1).この高度な類似性は,毎回同じ大きな断層パッチ(アスペリティ)が破壊されており,その位置や破壊プロセスが数十年単位で安定していることを示しています.一方,規模の小さな類似地震では,主要パッチの部分的破壊や周囲の小さなパッチの活動が加わった可能性が波形の差異として現れました.

 さらに,他の海底カルデラで発生したトラップドア断層破壊地震についても地震波形の比較を行ったところ,高い精度で波形が一致しました.この観測から,スミスカルデラと同様に特定の断層部分が繰り返し破壊されていることが示唆されます.ただし,繰り返し周期や地震規模はカルデラごとに異なり,断層構造や摩擦特性の違いが反映されていると考えられます.こうした研究は,海底火山における地震・津波の発生頻度や規模の理解,カルデラ火山の力学状態の把握に重要な手がかりを与えるものです.


解説記事:「地震規模に比べて大きな津波を繰り返し引き起こす火山性地震の発生メカニズム:海底火山・須美寿カルデラにおける『トラップドア断層破壊』」https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/research/17626/
研究速報:「【研究速報】2024年9月24日鳥島近海地震と津波」https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/news/22334/

図1.スミスカルデラの繰り返し地震の波形比較.2015年の地震(黒)を基準として,1996年(オレンジ)と2024年(青)を下記のデータ・周期帯域ごとに比較している:(a) 津波波形(B0: 100–500秒; 1996年のデータはなし),(b–d) 鉛直成分地震波波形(B1–B3: 50–200秒, 20–50秒, 10–20秒).波形は観測点ごとに縦方向にずらして表示している.観測点名の下部には,基準地震との相互相関係数を色分けで示す(1に近いほど波形の類似度が高い).(e) スミスカルデラ(赤三角)と,本研究で使用した津波計(青: DONET)および地震計(オレンジ: F-net)の位置.(f) スミスカルデラ直下における環状断層構造とマグマだまりの模式図.ゆっくりと進むマグマ高圧化によって,約十年間隔で断層の同じ部分(北東部分)が破壊するため,顕著に類似した津波と地震波が繰り返し観測される.