2016年熊本地震の本震発生前に見られた前震域の拡大

加藤 愛太郎・福田 淳一・中川 茂樹・小原 一成(東京大学地震研究所)

Geophysical Research Letters, doi: 10.1002/2016GL070079.

18 July 2016 (Online publication) http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2016GL070079/full

 2016年熊本地震の前震や本震に伴って発生した一連の地震活動の震源カタログを高い精度で推定し、その時空間発展を詳細に分析しました(図1)。その結果、4月14日の前震(モーメント・マグニチュード(Mw)6.2)発生以降、地震発生域が時間の経過とともに徐々に拡大する様子を捉えました(図2)。前震域の拡大は、断層の走向方向に加えて傾斜方向(浅い・深い)にも起きており、4月16日に発生した本震(Mw 7.0)の破壊開始点へ向かう動きも見られました。前震域の拡大は、前震(Mw 6.2)がきっかけとなって生じたゆっくりすべり(余効すべり)の伝播によるものと考えられます。

実際、前震発生域の近傍の地殻変動観測点(国土地理院電子基準点)では、前震発生後から本震が発生するまでの間に、前震時と同じ方向に変位がじわじわと進んだことがわかります(図3a, 3b)。このような変位が観測された場所は極少数であり、すべりの場所や大きさを正確に推定することは困難な状況ですが、前震の断層面上ですべりが生じたというモデルで変位データを説明することができます。この結果は、前震の断層面上においてゆっくりすべりが起きていたという解釈を支持します。前震による応力の載荷に加えてゆっくりすべりにより、本震断層面への応力載荷が進行し、本震の発生が促進されたと考えられます(図3c)。

前震活動中に地震発生域が拡大する現象は、沈み込む海洋プレートと陸側プレートとの境界で発生した2011年東北地方太平洋沖地震や2014年チリ北部地震の発生前に起きていたことが報告されているものの(e.g., Kato et al., 2012; Kato et al., 2016)、内陸の活断層においても、規模は小さいものの類似した現象が起きていたことを明らかにした点はユニークです。地殻内の浅い場所で規模の大きな地震が起きた後に、その余震域が時間の経過とともに拡大する現象は、2004年パークフィールド地震や2007年能登半島地震などの発生後に確認されており、ゆっくりすべり(余効すべり)の伝播が余震域の拡大をコントロールする物理過程の一つとして考えられています(Peng and Zhao, 2009; Kato and Obara, 2014)。

本研究で見られたような、大きな地震発生後に震源域の拡大や余効すべりが起きたからと言って、その周辺でさらに規模の大きな地震(本震)がすぐに発生するかどうかを判断することは、現状ではできません。なぜなら、本震の断層面が最終的に破壊に至るかどうかは、応力載荷の受け手側、つまり、本震の震源域の応力蓄積状況に依存するからです。本震の断層面に応力が十分蓄積されていて臨界状態に近い状況であれば、前震やその余効すべりが引き起こす応力載荷により、短期間で本震の発生が促進されると予想されます。断層の応力蓄積状況を把握する研究をより発展させることが、今後の重要な課題です。

図1. a) 九州地域の地震テクトニクス図6).灰色の○印はM6以上の地震の分布図.b) 地震活動と解析に用いた地震観測点の分布図.青色の点は2016年4月14日以降の熊本地震に関連した活動.灰色の点は熊本地震発生以前に発生した地震活動の位置(2003年以降, 気象庁一元化処理震源).□印は地震観測点、赤線は活断層の地表トレース、赤い△印は活火山の位置.
図1. a) 九州地域の地震テクトニクス図6).灰色の○印はM6以上の地震の分布図.b) 地震活動と解析に用いた地震観測点の分布図.青色の点は2016年4月14日以降の熊本地震に関連した活動.灰色の点は熊本地震発生以前に発生した地震活動の位置(2003年以降, 気象庁一元化処理震源).□印は地震観測点、赤線は活断層の地表トレース、赤い△印は活火山の位置.
図2. 前震の発生以降、本震が発生する直前までの地震活動の時空間発展図(積算図).断層の走向方向に加えて、断層面の傾斜方向(浅い・深い側)にも前震の発生域が拡大する様子がわかります.
図2. 前震の発生以降、本震が発生する直前までの地震活動の時空間発展図(積算図).断層の走向方向に加えて、断層面の傾斜方向(浅い・深い側)にも前震の発生域が拡大する様子がわかります.
図3. a) カラースケール(CFS)は前震(Mw 6.2)による本震断層面(A1-, A2-, B-fault)へ加わったCoulomb応力変化を示します.灰色の○印は前震から本震発生直前までの地震活動の震央位置を示します.黄色の☆印は本震の破壊開始点、灰色の実線は活断層の地表トレース.緑色の矢印は前震から本震発生前までに測地観測点で観測された非定常な変位ベクトル、白色矢印は前震の断層面上にすべり(約25 cm)を仮定して計算された理論変位ベクトル.b) 測地観測点(電子基準点)1071で捉えられた前震発生以降の非定常な変位変化.赤い曲線は、対数関数によるフィットを示します.c) 前震発生以降の地震の移動現象の概念図.黄色い矢印は前震域の拡大方向、黄色い☆印は本震の位置を示します.
図3. a) カラースケール(CFS)は前震(Mw 6.2)による本震断層面(A1-, A2-, B-fault)へ加わったCoulomb応力変化を示します.灰色の○印は前震から本震発生直前までの地震活動の震央位置を示します.黄色の☆印は本震の破壊開始点、灰色の実線は活断層の地表トレース.緑色の矢印は前震から本震発生前までに測地観測点で観測された非定常な変位ベクトル、白色矢印は前震の断層面上にすべり(約25 cm)を仮定して計算された理論変位ベクトル.b) 測地観測点(電子基準点)1071で捉えられた前震発生以降の非定常な変位変化.赤い曲線は、対数関数によるフィットを示します.c) 前震発生以降の地震の移動現象の概念図.黄色い矢印は前震域の拡大方向、黄色い☆印は本震の位置を示します.

【参考文献】

  • Kato, A., K. Obara, T. Igarashi, H. Tsuruoka, S. Nakagawa, and N. Hirata (2012), Propagation of slow slip leading up to the 2011 Mw 9.0 Tohoku-Oki Earthquake, Science, 335, 705–708, doi:10.1126/science.1215141.
  • Kato, A., J. Fukuda, T. Kumazawa, and S. Nakagawa (2016), Accelerated nucleation of the 2014 Iquique, Chile Mw 8.2 Earthquake, Sci. Rep., 6, 24792, doi:10.1038/srep24792.
  • Peng, Z., and P. Zhao (2009), Migration of early aftershocks following the 2004 Parkfield earthquake, Nature Geosci., 2, 877–881, doi:10.1038/ngeo697.
  • Kato, A., and K. Obara (2014), Step-like migration of early aftershocks following the 2007 Mw 6.7 Noto-Hanto earthquake, Japan, Geophys. Res. Lett., 41, 3864–3689, doi:10.1002/2014GL060427.